まず結論から
- 「吃音ポータルサイト」は、金沢大学の研究室が公開している吃音の情報サイトです。子ども本人・成人・保護者・学校の先生・ことばの教室やSTの先生と、読む人ごとに入口が分かれています。
- 成人向けのページは、吃音を「ことばがどもって、困ること」と捉え直し、問題の大きさは「困ること」の側で決まると書いています。
- 保護者向けのページは、保護者の接し方のまずさが原因で吃音が生じるわけでは決してないと明言し、幼児期の吃音は少なくとも半数が特別な指導や支援がなくても小学校に入るころまでに問題が見られなくなるとしています。
- 吃音については、原因の捉え方が時代とともに変わってきたため、インターネット上に古い情報と新しい情報が混在している、と学会が明記しています。
- SNSの吃音動画を言語聴覚士が採点した研究では、言語聴覚士が作った動画のほうが信頼性と質の評点が高く、一方で吃音のある成人が作った動画のほうが好意的なコメントを多く集めていました。
ただし、この記事で中身まで確かめられたのはこのサイトの一部のページだけで、サイト全体やその動画の良し悪しを判定するものではありません。また、吃音の情報が「一か所にまとまっていてほしい」という願いに対して、相談や治療の窓口のほうは、制度としてひとつにまとまってはいません。
「吃音ポータルサイト」で何が読めるか
このサイトは、金沢大学人間社会研究域の小林宏明さんが運営しているもので、各ページの下部にその名前が記されています。ページ上部のメニューは「きつ音にこまるみなさん(子ども本人)」「成人の方」「保護者の方」「担任の先生方」「ことばの教室/STの先生方」と、読む人ごとに分かれています。この記事で中身を引用したのは、そのうち5つのページです。
保護者の方向けのページでは、まず「保護者の接し方のまずさが原因で、お子さんに吃音が生じるわけでは決してありません」と書かれ、原因は完全には解明されていないものの、おそらくは子どもの持っている素因的な要因と環境の要因がある条件で組み合わさったときに生じると考えられる、と説明されています。予後については、幼児期の吃音の場合、少なくとも半数の子は特別な指導や支援をしなくても小学校に入学するぐらいまでに吃音の問題が見られなくなること(自然治癒)、小学校に入っても続く子でも、ことばの教室や言語聴覚士の適切な指導・支援を受けることで日常生活にそれほど大きな支障なく過ごせるようになることが挙げられています。
同じ保護者向けの別のページは、家庭での接し方を行動の単位まで下ろしています。大人の側が子どもの話す速さと同じか少しゆっくりめで話す、子どもが話し終わってから一呼吸置いて話しかける、相づちをうちながら最後まで聞く、きょうだいがいる場合は「順番に話す」というルールを設ける、そして子どもに対して「ゆっくり」「落ち着いて」などの声かけは極力控える——といった具合です。
成人の方向けのページは、辞書の定義を引いたうえで、「吃音の問題は、単に『ことばがうまく話せない』ことだけにあるわけではない」として、吃音を「(1) ことばがどもって (2) 困ること」と捉え直します。「困ること」として並ぶのは、恥ずかしい思いをする/言いたいことが言えずにいらいらする/周囲からのからかいや特別視/緊張したり不安になったりする/話すことを避けてしまう、といった状態です。別のページでは、前に失敗したことがまた起きるのではないかと身構えてしまう「予期不安」、言いにくいことばを別のことばに置き換える、話す失敗の少ないことを優先する、といった項目がさらに細かく並びます。
成人向けにはもう一枚、相談や支援の案内があります。言語聴覚士は国家資格で、養成課程に吃音が含まれていること。ただし業務が多岐にわたるため、必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではないこと。言友会などのセルフヘルプグループ(当事者どうしの集まり)は、学術的な知識や専門的な指導が受けられる場ではないが、当事者どうしでないと感じられない連帯感や、同じ悩みを持つ立場からの具体的な助言が得られる場であること——が書かれています。
名前を知らないまま、言葉だけで探していた
「吃音ポータルサイト」と打てる人は、すでにその名前を誰かから教わっています。けれど、そこにたどり着く前の時間のほうが、たいていはずっと長いものです。自分に起きていることに名前があると知らないまま、思いついた言葉をひとつだけ打ち込んでみる——多くの人の入口はそこにあります。
当事者の声(バンドのギター・作詞担当。自助団体のメディアに本人が寄せた手記)
ネットの検索欄に「キツオン」と入れてトップに出てきたページをクリックした。
読み進めるうちに、全身が心臓になったかのように私の体はバクバクと脈打つ。全身が充血したかのように、全身の血の気が引くかのように私は正気ではいられなかった。それはキツオンというものが完全に私が長年抱いていた恐怖の正体そのものだったからだ。全ての症状が思い当たり、当事者全ての経験談に共感できる。そうか、私は「吃音」だったのか。
この人が最初に違和感を意識したのは、高校から大学にかけての、誰もが一度は将来を考えるタイミングでした。就職活動の模擬面接で、自分の名前「田中」が言えなかった。その"現象"の正体もわからず、誰にも相談できず、自分は何かがおかしいのだと思い悩む日々を過ごした。本人は「恐怖を目の当たりにするのが怖くて自分で調べることもしなかった」と書いています。きっかけは、テレビで流れていた映画のCMでした。「英国史上、もっとも内気な王」という広告文句が耳に入り、聞こえた一語をそのまま打ち込む。開いた最初の1ページで、長年の恐怖に名前がつきました。ここで開いたページが何を書いているかは、その人のその後をかなり左右します。
出典: LEGO BIG MORLタナカヒロキが語る「なぜ吃音であるのに自分は今こうなっているのか」(HAPPY FOX)(台帳: V0251)
「全ての症状が思い当たる」という言い方は、情報の側から見ると、症状が一覧になって並んでいたということでもあります。吃音ポータルサイトの成人向けページも、まさにその形をとっています。「ことばがどもって」の中身として、音を繰り返す(「ぼ、ぼ、ぼく」)、伸ばす(「ぼーーーく」)、つまって出てこない(「・・・ぼく」)の3つを挙げ、そのうえで「困ること」の中身を別に並べる。学会の公式解説も、中核となる症状に加えて、言いやすい言葉を最初に言うといった工夫や、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月続く「波」まで、一続きで説明しています。自分の経験と照らして「これだ」と分かるのは、こうした一覧があるからです。
画面いっぱいに並んだあと、どれを読めばいいのか
名前にたどり着くと、今度は情報が一気に増えます。ひとつの正しい置き場を期待して来た人が、次にぶつかるのはここです。
当事者の声(27歳・会社員。大学院で吃音の支援を研究。新聞社系メディアの取材記事で、地の文は記者)
自分の症状が吃音だと理解したのは中学生になってから。家族が寝静まった後、パソコンで「呪い」の正体を調べました。
「『言葉 つまる』でネット検索すると、吃音の情報が画面いっぱいに並びました。それからインターネットで見つけた改善法を全て試しましたが、一時的に効果があっても、もとに戻ることの繰り返しでした」
話し始めた頃から吃音があり、自覚したのは小学2年生の頃。当時は「吃音」という症状があることを知らず、「ぼくだけがかかっている呪い」だと思っていたといいます。保護者と小学校の担任が吃音の話をしていたことはありましたが、本人と吃音について話す機会はなく、一人で悩みを抱えていました。中学生の夜、家族が寝静まってから開いたパソコンで、その「呪い」にようやく名前がつく。けれど画面に並んだのは、名前だけではありませんでした。並んでいたもののうち、何が確からしいのかを見分ける手がかりは、ふつう一緒には表示されません。
出典: 100人に1人にみられる「吃音」、教員の無理解で「いじめ」を招いたケースも 当事者に聞く"必要な配慮"とは(AERA with Kids+)(台帳: V0220)
並んだものの質がばらつくのには、はっきりした理由があります。学会の公式解説は、発達性吃音の原因に関する捉え方が時代とともに変化してきたため、インターネットには古い情報と新しい情報が混在していると書いています。そのうえで、最も問題のある間違った原因論として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説や、親が吃音だと思って対応することが原因だとする説を挙げ、そのために母親が周囲の人から非難されたという体験談を聞く、としています。吃音ポータルサイトの保護者向けページが冒頭に「保護者の接し方のまずさが原因で、お子さんに吃音が生じるわけでは決してありません」と置いているのも、同じ誤解の大きさを見ているからでしょう。
つまり、ネット上で見かける説の中には、すでに否定されたものがそのまま残っています。発信元がどこか、そしていつの情報かを見ておくと、並んだものの中から拾うものが変わります。
名前にたどり着いた、その日に来るもの
情報の置き場を見つけることは、いつも安心につながるとは限りません。正体が分かるというのは、これからのことも同時に知ってしまう、ということでもあるからです。
当事者の声(25歳・会社員。吃音の情報サイトの一次インタビュー)
ショックですね。
ずっと正体もわからないまま抱えてきたコンプレックスみたいなものに、名前がついているってわかって、それが病気であり障害でもあるってことが判明して。
それまで名前もわからないまま抱えてきたものの正体が知れたことによって、また違うものを抱えることになったというか。
しっかり病気というか診断名がついてる障害みたいなことを知って、まあすがすがしくもあり。
でも治療法があんまりないってこともその時点で分かったんですよ。その時はすごい絶望でしたね。
治んない、このまま、一生このままだってことが分かってしまって。
この人が調べたのは中学3年の秋、携帯電話を持っていなかったので家のパソコンでした。「喋れないのは何か」と打ち込んで、調べてすぐに出てきたといいます。保育園の頃に同級生から「なんで君は繰り返して『たたた』っていうふう喋るの?」と聞かれて自分の話し方の違いに気づき、小学校の間は「これ、どういう罰ゲームかな?」と思いながら過ごしてきた。その正体に名前がついた夜、同じ画面から「治療法があんまりない」という情報も一緒に入ってきました。数週間は暗い気持ちでいっぱいだったといい、そのときに初めて両親に相談しています。ここで受け取った「治らない」は、手元の資料が書いていることと、少しずれています。
出典: 「態度が悪い」の背景にある"吃音"という存在を知ってほしいー25歳当事者の学生時代と今(きつおんりんく)(台帳: V0193)
まず、薬についてははっきりしています。吃音に有効性が確立された薬物はなく、吃音が適応として保険収載されている薬もないと明記されています。ただし同じ資料は、治療の中心は、周りの人の接し方や話す場面のほうを変えること、言語訓練、カウンセリング、心理療法や行動療法であり、どの人にも一様に有効な治療法はないので、その人に応じて(しばしば組み合わせて)選ぶことである程度の有効率が得られることが多い、と続けています。
予後の書かれ方も同じです。吃音ポータルサイトの保護者向けページは、小学校に入って吃音が引き続き見られる子どもでも、ことばの教室や言語聴覚士の適切な指導・支援を受けることで、多くの場合、身体の緊張を伴う重い吃音があまり見られなくなったり、吃音が出にくいように身体の緊張をうまくコントロールしながら話す方法を身につけたりして、日常生活の中でそれほど大きな支障なく過ごせるようになる、としています。さらに、中学・高校の時期や就職活動の時期に、あらためて話しにくさで悩んだり不安を感じたりする場合があるが、多くはそれを乗り越えるなかで不安や悩みが再び軽くなっていくとも書かれています。「治るか治らないか」と「楽に過ごせるようになるか」は、別の問いとして書かれている——この区別に気づけるかどうかが、最初の一夜の受け取り方を変えます。
調べる言葉をひとつ足すと、出てくるものが変わる
情報の置き場を見つけても、そこから先の「どこへ行けばいいか」は自分で組み立てることになります。そして、打ち込む言葉を少し変えるだけで、出てくるものが入れ替わることがあります。
当事者の声(40代半ば・社会福祉士。個人ブログの受診体験記)
まずは病院探しから。 インターネットで「(都道府県名) 吃音 外来」で検索してみると……
結果は、ほとんどが子ども向けの吃音外来だった。
「そりゃそうかぁ」と思いつつ、負けじと検索ワードに「成人」を追加。
その結果、近隣の都道府県で二か所、吃音外来を見つけた。
想像はしていたけど、成人の吃音を診てもらえる病院って本当に少ない。
相談できる場が限られていることも、成人吃音者が苦しむ要因のひとつだと感じた。
高齢者福祉の分野で相談員をしているこの人は、吃音との付き合いが30年近くになります。担当範囲が広がって電話対応や口頭での説明が増えたこと、そしてこれまで正式な診断を受けていない「自称吃音」のままでいることが気になり、受診を決めました。最初に打ち込んだ地名入りの言葉では、並んだのは子ども向けの窓口ばかり。「成人」という一語を足して、ようやく近隣に二か所を見つけます。その後、大きな病院の予約窓口に電話すると、紹介状がない初診は自己負担額が高くなるため、先に近隣のクリニックで紹介状を書いてもらえるか聞いてみてほしい、と案内されました。窓口の側の事情も、たどり着きにくさの一部です。
出典: 吃音外来に行ってみました!受診体験記|吃音×社会福祉士(note)(台帳: V0252)
相談先そのものは、資料に並んでいます。幼児吃音臨床ガイドラインは、吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の(小児)リハビリテーションセンター、大学教育学部に付属する発達や言語の相談室、地域の児童発達支援センター、そして就学後は小学校の通級指導教室である「ことばの教室」などを挙げています。そのうえで解説には、「相談対応機関の多くは治療には対応できないことも多いことに留意する必要がある」と書かれています。相談できる所と、治療を受けられる所は、同じとは限らないということです。
吃音ポータルサイトの成人向けページも、同じ段差を書いています。言語聴覚士の養成課程には吃音が含まれているものの、業務が多岐にわたるため必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではなく、希望する場合はあらかじめ病院等に直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねるように、と案内しています。その日本言語聴覚士協会のページは、言語聴覚障害を(1)聞こえの障害、(2)言語機能の障害、(3)話しことばの障害、(4)食べたり飲み込んだりすることの障害の四つに整理しており、吃音は(3)にあたります。また、当事者団体の全国組織は、子どもの吃音への対応方法の確認や医療機関の紹介といった個別の相談には原則として応じられず、希望する場合は近くの加盟団体に連絡してほしいと明記しています。「ひとつの窓口」を期待して来た人の直感は間違っていないのに、制度の側はそうなっていない——このずれは、あらかじめ知っておくほうが消耗しません。どこに何を相談できるかは、吃音の相談先で詳しく整理しています。
情報は、画面の外から手渡されることもある
ここまでは一人で探す話でしたが、実際にいちばん効いた情報が、人から手渡されたものだったという場面もあります。
保護者の声(吃音のある2人の娘の父。2012年から続く個人ブログ)
そのやりとりを長女が聞いてて、ビシッとアドバイス。
「面接最初に吃音の事言えばいい」
「言えなければメモを渡せばいい」
「自分の大学受験の面談(1人1時間以上あった)では一部筆談(スマホ)でこなした」
と。
正直、カッコよかったですわ。逞しいです長女。結果合格してるし。
中学3年になった次女は、日直や体験入学で、皆の前で言葉が出なくなることが増えていました。入学時に学校へ「吃音持ち」を伝えてあり、担任が本人と相談して英語の音読の対処方法などを関係する先生に回してくれていたといいます。進学希望の高校には推薦入学があり、担任から「配慮はどうしますか?」と電話が来た。長女のときは、複数人の前だと声が出なくなることがあったため、本人の希望も聞いて、小学生時代に通った病院の言語聴覚士に一筆書いてもらっています。そのやりとりを横で聞いていた長女が、妹に自分のやり方を渡す——調べて出てくる情報ではなく、先に通った人の手順でした。こうした受け渡しが起きるには、その前に「話していいこと」になっている必要があります。
出典: 次女(中3)の受験・学校での配慮(吃音(どもり)ネタを貼ってくブログ)(台帳: V0480)
吃音ポータルサイトの保護者向けページは、まさにその手前を書いています。多くの保護者は、子どもが自分の吃音のことを話してきたときに動揺し、曖昧にごまかしてしまいがちだが、そうすると子どもは「このことは、話してはいけないことなんだ」「話すとお母さんを困らせてしまうんだ」と感じ、誰にも相談できずに一人で悩むことになりかねない——だから吃音のことをタブーにせず、フランクに話し合える関係を作っておくことが大切だ、としています。具体的な準備として、「吃音の話し方」は「くせ」のようなもので悪いことではないと伝えること、背が高い子と低い子がいるように話し方にもいろいろあると話すこと、普段から吃音以外の悩みの相談にもよく応じておくことが挙げられています。
学校の側から渡せるものもあります。発達障害ナビポータルは、吃音のある子どもは発話場面でしか症状が出ないため悩みが過小評価されやすいとして、担任の先生・養育者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになるとしています。制度の側も動いています。2024年に改正障害者差別解消法が施行され、国公立の学校だけでなく私立の学校も合理的配慮の提供が義務化されたため、高校入試や大学入試の面接試験で事前に吃音があることを伝えておくと、「過重な負担」となる範囲を除き、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕の確保といった配慮を受けられるようになっています。
動画で知ろうとするとき、何を手がかりにするか
読むより見るほうが入ってきやすい、という人もいます。実際、吃音の情報を動画で探す人は少なくありません。ただ、動画は文章より「誰が作ったか」が見えにくく、代わりに再生数やコメントの数が目に入ります。そこには、知っておくと役に立つ食い違いがあります。
言語聴覚士が、消費者向けの健康情報の質を測るために作られた採点表(M-DISCERN・GQS・PEMAT。それぞれ情報の確からしさ、全体の質、分かりやすさと実行しやすさを採点するものです)を使って、YouTubeとInstagramの吃音動画を評価した研究があります。つまり、動画の質を測るものさしは実在します。
その結果、言語聴覚士が作った動画は、吃音のある成人や専門家でない人が作った動画より、信頼性が高く質も高いと報告されました。YouTubeでは、言語聴覚士が作った動画は他の医療専門職が作った動画と比べても、質・信頼性・分かりやすさで上回っていました。ところが同じ研究は、吃音のある成人が作った動画のほうが、言語聴覚士や他の医療専門職の動画より好意的なコメントを多く集めていたとも報告しています。反応の多さと、評点の高さは、同じ向きを向いていないということです。この研究の結論は「吃音のある成人は、自分が見る動画の内容と出所を注意深く考えるべきである」「言語聴覚士は、正確で役に立つ情報が行き渡るよう、質の高い内容をSNSで発信するよう促されるべきである」というものでした。
誰の発信が届きやすいかという話もあります。X(旧Twitter)で反応の大きかった吃音関連の投稿153件を調べた探索的な研究では、投稿の69.93%が肯定的、6.54%が否定的、23.53%が中立でした。肯定的な投稿の多くは、自らを吃音のアドボケイト(当事者の立場で発信する人)と名乗るアカウントによるものです。投稿どうしのつながりを見た分析では、医療専門職と支援団体が、吃音の受け取られ方を形づくるうえで重要な役割を果たしていました。この研究は、Xにおける吃音の表され方には、支えになる面と偏見を強める面の両方があったと結論づけています。
⚠ これら2本は、いずれも英語圏のYouTube・Instagram・Xを対象にした調査で、日本語の特定のチャンネルや動画を評価したものではありません。日本語の動画については、同じものさしで測った資料が手元にありません。動画そのものの見つけ方・使い方は、吃音の動画でまとめています。
「正しい置き場をひとつ」と思うときの3つの落とし穴
落とし穴1 − 相談の窓口もひとつにまとまっている、と期待してしまう
情報の置き場と、相談の窓口は別の話です。ガイドラインは相談先の種類を列挙したうえで、相談対応機関の多くは治療には対応できないことも多いと注意し、近隣の施設が分からない場合は地元の保健センターか各都道府県の言語聴覚士会に問い合わせ、それでも見つからない場合は日本言語聴覚士協会に問い合わせることを勧めています。当事者団体の全国組織も、個別の相談には原則として応じられず、近くの加盟団体に連絡してほしいとしています。「1回で全部そろう場所」を探し続けるより、順に当たるほうが早いのが現状です。
落とし穴2 − 反応の多さを、情報の確かさと取り違える
再生数やコメントの多さは、見る側にすぐ分かる手がかりです。しかし、SNSの吃音動画を採点した研究では、好意的なコメントを多く集めていたのは吃音のある成人が作った動画のほうで、信頼性と質の評点が高かったのは言語聴覚士が作った動画のほうでした。当事者の発信に価値がないという話ではありません——同じ経験をした人の言葉にしか運べないものは確かにあります。ただ、体験を受け取る場面と、事実関係を確かめる場面は、分けておくほうが安全です。
落とし穴3 − 古い原因論をそのまま持ち帰ってしまう
吃音については、インターネット上に古い情報と新しい情報が混在しており、最も問題のある間違った原因論として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説などが挙げられています。利き手を矯正したことが悪い、下の子が生まれて愛情不足が原因、といった説が言われていた歴史的背景があることも、公的な資料が明記しています。吃音の専門機関の資料も、保護者の接し方のまずさが原因で吃音が生じるわけでは決してないと書いています。もし自分を責める材料になる説に行き当たったら、それがいつの情報なのかを先に確かめてください。
そして、読むだけで足りないと感じたときの相談先は、言語聴覚士とことばの教室です。とくに、就学が近づいても吃音が続いている、身体の緊張を伴う重い吃音が目立ってきた、本人が話しにくさを気にして話すことを避け始めている——といったときは、様子を見るだけにせず相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。相談のときには、いつ・どんな場面で出やすいかを書き留めたものがあると話が早くなります。日々の様子を少しずつ残しておくことから始めてみてください。
よくある質問
「吃音ポータルサイト」はどんなサイトですか?
金沢大学の研究室が公開している吃音の情報サイトで、子ども本人・成人・保護者・学校の先生・ことばの教室やSTの先生と、読む人ごとに入口が分かれています。成人向けのページは吃音を「ことばがどもって、困ること」と捉え直し、保護者向けのページには原因と予後、家庭での接し方が書かれています。
動画で吃音のことを知りたいときは、何に気をつければいいですか?
SNSの吃音動画を言語聴覚士が採点した研究では、言語聴覚士が作った動画のほうが信頼性と質の評点が高く、吃音のある成人が作った動画のほうが好意的なコメントを多く集めていました。原典は、見る側が動画の内容と出所を注意深く考えるべきだと述べています。ただしこれは英語圏のYouTube・Instagramを対象にした調査で、日本語の特定のチャンネルを評価したものではありません。
ネットで見つけた吃音の情報が確かかどうか、どう見分ければいいですか?
学会の公式解説は、原因の捉え方が時代とともに変わってきたため、インターネットには古い情報と新しい情報が混在していると書いています。とくに、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説は、最も問題のある間違った原因論として挙げられています。吃音の専門機関の資料も、保護者の接し方のまずさが原因ではないと明記しています。発信元と、いつの情報かを見ておくのが手がかりになります。
サイトを読めば、相談先まで分かりますか?
相談先の候補は資料に並んでいますが、ひとつの窓口にまとまってはいません。幼児吃音臨床ガイドラインは相談先の種類を列挙したうえで、相談対応機関の多くは治療には対応できないことも多いと注意しています。また、必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではないため、あらかじめ病院等に問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねるよう案内されています。
子どもが自分から吃音のことを話してきたら、どうすればいいですか?
吃音ポータルサイトの保護者向けページは、動揺してごまかすと子どもが「このことは、話してはいけないことなんだ」と感じかねないとして、タブーにせずフランクに話し合うことを勧めています。準備として、「吃音の話し方」は「くせ」のようなもので悪いことではないと伝えること、背が高い子と低い子がいるように話し方にもいろいろあると話すことが挙げられています。学校では、担任や支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」とオープンに聞くことが、話しやすくするきっかけになるとされています。
まとめ
- 「吃音ポータルサイト」は金沢大学の研究室が公開している情報サイトで、子ども本人・成人・保護者・学校の先生・ことばの教室やSTの先生と、読む人ごとに入口が分かれている。
- 成人向けは吃音を「ことばがどもって、困ること」と捉え直して困りごとを一覧にし、保護者向けは「保護者の接し方のまずさが原因ではない」と明言したうえで予後と家庭での接し方を書いている。
- 吃音についてはインターネット上に古い情報と新しい情報が混在しており、親の接し方や愛情不足を原因とする説は最も問題のある間違った原因論として挙げられている。発信元といつの情報かを見るのが手がかりになる。
- 動画は、言語聴覚士が作ったもののほうが信頼性と質の評点が高い一方、当事者が作ったもののほうが好意的なコメントを多く集めていた。反応の多さと評点は同じ向きを向いていない。ただしこれは英語圏のSNSを対象にした調査。
- 情報の置き場と、相談・治療の窓口は別。相談対応機関の多くは治療には対応できないことも多く、全ての言語聴覚士が吃音を扱うわけでもないので、事前の問い合わせが近道になる。