吃音は脳梗塞のせい?|大人で急に出た場合の見分け方と相談先

目次

「脳梗塞のあと、家族の話し方が変わった」「退院してから、言葉の出だしで詰まるようになった」——脳の病気やけがのあとに、それまで無かったどもりが出ることがあります。これは後遺症なのか、もともとあったものが出てきただけなのか、どこに相談すればいいのか。調べても分類の説明が並ぶばかりで、知りたいところにたどり着けないと感じている方も多いと思います。

この記事は、結論を先に置いたうえで、大人になってから吃音と向き合うことになった3人の記録と、研究が何を言えているのかを並べます。脳の病変の位置を調べたカンタベリー大学らの2024年の研究、米国NIH(国立神経疾患・脳卒中研究所)とメリーランド大学が大人になって始まった吃音を調べた研究、ワシントン大学らが子どものころからの吃音と脳の損傷後の吃音を直接比べた研究が、この記事の土台です。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。脳の病気やけがのあとに話しにくさが出たときは、自己判断せず、治療を担当している医師や言語聴覚士にご相談ください。

まず結論から

  • 脳梗塞など脳の損傷や病気のあとに、それまで無かったどもりが出ることがあります。これは獲得性(後天性)の吃音——つまり、生まれつきでも子どものころからでもなく、あとから出てきた吃音——と呼ばれ、幼児期に始まる吃音とは区別されてきました。
  • 「脳のここが壊れると吃音になる」という一か所は、まだ見つかっていません。脳の損傷後の吃音の症例報告を集めたレビューは、病変が神経系の特定の一か所と対応していないと述べています。
  • 2024年の研究は、脳卒中のあとに吃音が出た20例の病変の位置がばらばらだったこと、そしてそれらが両側の被殻(ひかく。脳の奥にあって、動きのタイミングを整えるのに関わる部分)と左下前頭回(左の前頭葉の下のほうの領域)を中心とする共通のつながりを持っていたことを報告しています。
  • 子どものころからの吃音と、脳卒中のあとに出た吃音は、どの語でどもりやすいかが重なっていました録音を聞いただけでは言語聴覚士でも見分けにくいという報告もあります。
  • 脳の損傷のあとの話しにくさには、失語(ことばの理解や表出そのものがうまくいかない状態)や発語失行(話す動作をうまく組み立てられない状態)など別の症状が重なることがあります。

ただし、ここで挙げた研究はいずれも参加者が20人前後と少なく、2024年の研究も、吃音と結びつくと既に報告された場所ほど発表されやすいという偏りが残ること、健常者の結合データで代用していることを自ら限界として挙げています。目の前の一人の話しにくさが何から来ているかは、画像と診察を持っている医療者にしか判断できません。

声が戻ったら、話し方が変わっていた

大人になってから吃音が始まる、ということが実際に起こります。ただ、その人が「吃音」という言葉を知っているとは限りません。ある日を境に、自分に何が起きたのかを説明する言葉を持たないまま、その状態と暮らし始めることになります。

40代男性・30代半ばに獲得性吃音(元営業職)の声(自助グループ「岡山言友会」の例会参加者の声)

私は発達性吃音はなかったのですが、30代半ばより、脳の疾病や精神的・心理的な問題によって獲得性吃音となり、よきパートナーとして付き合っています。

吃音になるまでは、吃音というもの自体知りませんでした。営業マンとしていくつか成績を残し話すことは自信がありました。それが、いきなり声を失った時期がありリハビリして話せるまで回復したら吃音という障害が残りました。

自助グループの例会に寄せられた7人の声のうちの1つです。営業の仕事で成績を残し、話すことに自信があった人が、声を失い、リハビリを経て話せるところまで戻ったとき、戻らなかったものとして吃音が残った——順番はそう書かれています。同じ文章には、人に会うのが嫌になり、やる気が出ない日々があったこと、周りの人に支えられて今があることも続けて書かれています。大人になってから始まる吃音の原因として挙げられてきたのは、脳卒中や頭部のけが、神経の変性疾患で、つらい出来事のあとに始まる心因性の吃音は、それとは別のものとして扱われてきました。

出典: 例会参加者の声(岡山言友会)(台帳: V0109)

吃音の始まりは、その大半が2〜4歳ごろで、8歳を過ぎてから報告される例はごくわずかです。だから、思春期を過ぎてから始まった吃音は、神経の病気によるもの、心理的なもの、あるいはその両方が原因と考えられてきました。ただしこの研究自身は、神経の損傷もけがも見つからないのに十代以降に吃音が始まり、子どものころからの吃音に典型的とされる特徴を示した人たちを報告しています。著者らは、もともと吃音になりやすい素因を持っていた人が、後になって引き金を引かれた可能性もあると述べています。「大人になって出た=必ず脳のせい」とも、「脳の検査で異常が無い=気のせい」とも言えない、ということです。

変わったのは、話し方だけではなかった

脳の病気やけがのあとに変わるのは、どもりだけとは限りません。同じ時期に、読む・持つ・食べるといった別の動作も一緒に変わっていることがあります。そして本人は、その全部を並べて経験します。

17歳のときの交通事故のあとに吃音が出た男性の記録(個人ブログ・note)

それから何度かマンガを読もうとしたんだけど文字がだぶって見えて文字を読む事が出来なかった。

そして、ご飯を食べようとお箸を持とうとしたけどお箸をちゃんと使う事が出来なかった。

今まで当たり前のように出来ていた事が出来なくなっていた。

そして、家族や友達と話をした時に気づいた。

どもって話をしていた事に。

お、おれ、お、お、お、おれ、おれ、おれな。おれ、ア、ア、アイ、アイス、アイス、た、たべ、たべ、たべ、たい、ねん。

僕は文字の意味も理解出来ないし、お箸を持つ握力もないし、言葉も思うように話せない。

17歳で交通事故に遭い、意識不明の重体から回復した人が、意識が戻ったあとのことを順番に書いています。文字は読めるのに意味が分からない、箸が持てない、そして家族や友達と話して初めて、自分がどもっていることに気づく——どもりは、いくつも並んだ変化のうちの一つとして現れています。脳の損傷のあとに吃音が出た人たちを調べた研究でも、吃音と一緒に、失語症、発語失行、ろれつが回らない構音障害、物の名前が出てこない症状などが診断されています。

出典: どもりってかっこいい!(note)(台帳: V0380)

この研究に参加した人たちの経過を一人ずつ見ると、脳梗塞などの脳血管障害のあとに話し方が変わった例、急な話し方の変化で病院に運ばれた例が並びます。画像検査では、右半球の血流が途絶えた部分や橋(きょう。脳幹の一部)の異常、左の頭頂葉の変化が確認されています。話し方の評価をして診断名を付けているのは、いずれも言語聴覚士です。

一方で、重なって現れることと、同じものであることは別です。2024年の研究は、脳卒中のあとに吃音が出た人と、脳卒中は起きたが吃音は出なかった人を比べることで、失語や構音障害など他の言語症状ではなく吃音に結びつくつながりを取り出しています話しにくさをひとまとめにせず、何が起きているのかを分けて見る作業には、意味があるということです。構音障害と吃音の違いは、別の記事で整理しています。

大人になってから、どこに相談するか

脳の病気やけがのあとの話しにくさは、入院やリハビリの期間であれば、治療を担当している医師や言語聴覚士にその場で伝えるのがいちばん早い道です。ただ、退院したあとや、時間がたってから話しにくさが残っていると気づいた場合には、行き先を自分で探すことになります。

大人になってから成人の吃音を診る外来を受診した当事者(薬剤師・個人ブログ・note)

そこで「成人でも診てもらえる外来」を探しました。

現在は国立障害者リハビリテーションセンター病院の成人吃音相談外来に通院しています。診察に加え、言語聴覚士の先生と発声や話し方の訓練を行っています。

この人の吃音は幼少期からのもので、脳の病気のあとに始まった吃音とは始まり方が違います。それでも、大人になってから相談先を自分で探すという道のりは重なります。両親が対応を模索したものの専門的な医療機関にはつながれず、中学以降は治療が途切れたまま社会人になり、薬剤師として話す場面が増えたことをきっかけに外来を探した——と本人は書いています。訓練の実感として書かれているのは、劇的な変化ではなく「対処法を知っている」という安心感のほうでした。本人も、効果や経過には個人差があると断っています。

出典: 大人になってから吃音外来を受診した話(note)(台帳: V0294)

相談の場で何を伝えるかについて、研究の側から一つ足せることがあります。2024年の研究で脳の領域との関連が出たのは、外から見える詰まりの回数ではなく、話し手自身の視点から吃音の重さを測ったときだけでした。著者らは、評価と支援では、社会的・情動的な反応を含む話し手の体験も見る必要があると述べています。当事者向けの資料も、吃音の問題を「ことばがどもって」「困ること」の二つで捉え、恥ずかしい思いをする・言いたいことが言えないといった困りごとを問題の中身に含めています。同じ資料は、以前の失敗がまた起きるのではないかという不安、言いにくい言葉を別の言葉に置き換えること、話す場面を避けることも、当事者が経験することとして並べています。どのくらいどもるかだけが、伝えるべきことではありません。

脳のどこが壊れると、吃音が出るのか

まず、答えの形から確かめておきます。脳の損傷後の吃音の症例報告を集めたレビューは、病変が左右の大脳の各葉・小脳・深部の白質・視床・脳幹と広い範囲にわたっており、獲得性吃音は神経系の特定の一か所の損傷とは対応していないと述べています。「ここが壊れたから吃音になった」と一か所を名指しできる段階には、まだありません。

2024年の研究は、この散らばりを逆手に取りました。使われたのは、公表された症例報告から集めた脳卒中後の20例(16〜77歳)、別に臨床で集めた脳卒中後の20例(45〜87歳)、持続する発達性吃音のある成人20人という、3つの独立したデータです。

文献から集めた20例では、病変の位置は非常にばらばらで、症例どうしの重なりはほとんどありませんでした。右側だけが3例、両側が6例、左側が11例。場所も、前頭葉・側頭葉・頭頂葉・後頭葉、視床・大脳基底核(脳の奥にある運動の調整に関わる部分)・脳幹、さらに放線冠や脳梁といった脳の中を走る線維の束にまで及んでいました。

ところが、それぞれの病変が脳のどこと機能的につながっているかの地図に置き換えると、像が結びます。脳卒中を起こした対照の病変と比べたとき、吃音を起こした病変は両側の被殻と左下前頭回を中心とする領域へのつながりが強いという結果でした。臨床で集めたコホートでも結果は同じ領域に収束し、最も大きなまとまりは左の被殻を中心としていました。

被殻が中心に来る理由として、著者らは、被殻が複雑な運動の内的なタイミングと順序づけを担うこと、体の部位ごとに担当が分かれていて、この研究で示された後方の領域が唇の動きを含む顔の運動の調節を担うことを挙げています。傍証として、頭部を貫くけがのあとに吃音が出た患者でレンズ核(被殻と淡蒼球)に病変があったという報告、同じ領域がパーキンソン病でも侵されること、パーキンソン病で淡蒼球に脳深部刺激を行ったあとに新しく吃音が出た報告も並べられています。

この研究は、生まれつきの吃音と後天的な吃音が神経の基盤を共有する可能性まで述べています。ただし、著者ら自身が限界も明記しています。吃音と結びつくと既に報告された場所ほど論文になりやすいという偏りを除けないこと、そして病変のつながりを健常者の標準的なデータで代用しているため、独立した確認が要ることです。脳の仕組みそのものについては、吃音のメカニズムの記事でも整理しています。

子どものころからの吃音とは、別物なのか

分類の上では、幼児期に始まる吃音と、脳の損傷のあとに出る吃音は別のものとして扱われてきました。では、出てくる症状も別物なのでしょうか。ワシントン大学らの2019年の研究が、この問いを正面から測っています。子どものころから続く吃音のある大人35人と、脳の損傷のあとに吃音が出た大人5人に同じ文章を音読してもらい、どもった語と流暢だった語を比べたものです。

結果は、重なりのほうでした。語が長いこと、語頭の音が子音であること、名詞・動詞・形容詞・副詞といった内容語であること——この3つは、どちらの群でも、どもった語のほうに偏って当てはまっていました5人という人数ですが、平均だけでなく一人ずつ見ても全員が同じ向きで、その幅は子どものころからの吃音の群の平均値を含んでいました。一方、文の書き出しの三語でどもりやすいという通説は、どちらの群でも確かめられませんでした。

脳卒中のあとに吃音が出た成人5人の音読で、どもった語となめらかに言えた語を比べ、どもった語のほうに偏っていた条件を差の大きさ(Cohen's d)で並べた図。語が長い(5文字以上)が2.76、名詞・動詞・形容詞・副詞であるが2.02、語頭の音が子音であるが1.29。0.8以上が大きい差とされる。4つめの条件である「文の書き出し3語にある」では差がみられず、差の大きさも報告されていない。5人それぞれの中での比較で、子どものころからの吃音の群との統計的な比較は行われていない。
図1: 脳卒中のあとに出た吃音でも、どもった語には同じ3つの条件が偏っていた。出典: Max, Kadri, Mitsuya & Balasubramanian (2019) Brain Lang.

この研究が指摘しているのは、「後天性吃音は発達性の吃音とは別物だ」という以前の主張が、実は確かめられていなかったという点です。語頭が子音か母音か、内容語かどうかという分け方は、脳の損傷後の吃音を扱った研究では調べられてこなかった、と述べられています。八十年を超える吃音研究の歴史のなかで、この二つを直接比べた研究はごくわずかしかない、とも書かれています。

見分けの難しさも、同じ方向を指しています。言語聴覚士が両方の録音を聞いて評価した先行研究では、二つの吃音のどもり方は聞き分けが難しいと報告されています。脳の損傷後の吃音のレビューも、神経の損傷によるものか心理的な出来事によるものかを、話し方の聞こえ方だけで見分けるのは信頼できないとしています。「専門家なら聞けば分かる」ではない、ということです。

違いが無いわけではありません。米国NIHとメリーランド大学の研究では、子どものころから吃音が続く大人のほうが文の始まりや最初の名詞句で詰まる割合が高く(合計59%)、大人になって始まった群では低め(39%)でした。言葉が出せずに間があく詰まり方の割合も、前者で23%、後者で6%です。ただし原典はこれらを統計的に検定しておらず、割合の傾向として書いています。著者らは、長く吃音とつきあってきた群のほうが、言葉を出そうともがく度合いが強いためだろうと述べています。症状の型そのものについては、吃音の種類の記事で整理しています。

子どものころから吃音が続く大人14人と、大人になって吃音が始まった4人で、詰まった場所がその人の吃音全体に占める割合を比べた図。文の始まり・最初の名詞句は、子どものころから続く群が59%、大人になって始まった群が39%。動詞句の始まり・動詞句の中は、子どものころから続く群が11%、大人になって始まった群が21%。統計的な検定はされておらず、割合の傾向として報告されたもの。大人になって始まった4人は、神経の損傷が見つからなかった例。
図2: 文のどこで詰まるかは、吃音の始まり方で割合が違っていた。出典: Chang, Synnestvedt, Ostuni & Ludlow (2010) J Neurolinguistics.
詰まり方の型のうち、2つの群で分布の違いがあったのはブロック(言葉が出せずに間があく詰まり方)の割合だけだったことを示す図。その人の吃音全体に占める割合は、子どものころから続く吃音のある大人14人で23%、大人になって吃音が始まった4人で6%。統計的な検定はされておらず、傾向としての報告。大人になって始まった4人は、神経の損傷が見つからなかった例。
図3: 詰まり方の型で違いが出たのは「ブロック」の割合だけ。出典: Chang, Synnestvedt, Ostuni & Ludlow (2010) J Neurolinguistics.

もう一つ、手がかりとして挙げられているものがあります。同じ文章を繰り返し読むうちに流暢になる現象(適応効果)や、遅れて聞こえる自分の声を聞きながら話すと流暢になる現象は、子どものころからの吃音のある大人では多くの人に見られるのに対し、脳の損傷のあとの吃音では見られる人がかなり少ないと報告されています。ただしこれは群としての傾向で、一人の診断を決める物差しではありません。

「脳梗塞のせいか」を調べるときに陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 話し方の様子だけで「後遺症だ」と決めてしまう

脳の損傷後の吃音のレビューは、神経の損傷によるものか心理的な出来事によるものかを、話し方の聞こえ方だけで見分けるのは信頼できないとしています。言語聴覚士が録音を聞いても、子どものころからの吃音との区別は難しいという報告もあります。さらに、話しにくさには失語や発語失行が重なることもあります。何が起きているのかを決めるには、画像と診察が要ります。自己判断で結論を出さず、治療を担当している医師に伝えてください。

落とし穴2 − 「子どものころどもっていたから、これは元からのもの」と片づける

2019年の研究に参加した人のうち二人は、子どものころに吃音があり、成長とともに治まっていた人でした。脳卒中のあとに出た症状について、家族や本人が「子どものときのどもりに似ている」と語っています。似ていることと、同じ原因であることは別です。いったん治まった吃音が戻ったように見える場合でも、そのときの引き金が脳の損傷であれば、経過も相談先も変わります。吃音の原因の全体像は、別の記事で整理しています。

落とし穴3 − 一つの数字や一か所の名前で結論を出す

病変の位置は脳のあちこちに散らばっており、一か所には絞れません。共通のネットワークが見つかった2024年の研究も、報告されやすい病変が集まる偏りと、健常者のデータで代用したことを限界に挙げています。断片的な説明で結論を急ぐより、いつから・どんな場面で・どんな詰まり方をするのかを書き留めて、診察に持っていくほうが確実です。日々の様子を記録しておくと、経過を後から見返すときにも役立ちます。

まずは気づいたことを書き留めておくことから小さく始め、治療を担当している医師や言語聴覚士に相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

脳梗塞のあとに吃音が出ることはありますか?

あります。それまで吃音が無かった人に、脳の損傷や病気のあとで吃音が現れることがあり、獲得性(後天性)の吃音と呼ばれてきました。2024年の研究は、脳卒中のあとに吃音が出た症例を、文献から集めたものと臨床で集めたものの2つの独立したデータで調べています。ただし、ある人の話しにくさが脳梗塞から来ているかどうかは、画像と診察を持つ医療者が判断することです。

脳梗塞のあとの吃音と、子どものころからの吃音は見分けられますか?

話し方の聞こえ方だけで見分けるのは難しいとされています。言語聴覚士が両方の録音を聞いて評価した研究では、二つの吃音のどもり方は聞き分けが難しいと報告されています。脳の損傷後の吃音のレビューも、神経の損傷によるものか心理的な出来事によるものかを、話し方の特徴だけで見分けるのは信頼できないとしています。いつ始まったか、その前後に何があったかが手がかりになります。

吃音の原因は、脳の障害ということですか?

「脳のここが壊れると吃音になる」という一か所は見つかっていません。2024年の研究は、吃音を起こした病変の位置はばらばらでも、両側の被殻と左下前頭回を中心とする共通のつながりを持っていたと報告しています。同じ研究は、持続する吃音のある成人でも、そのネットワークの中の脳の構造の違いが、本人が感じている影響の大きさと関連したとしています。

脳梗塞のあとに吃音が出たら、何科に行けばいいですか?

まずは脳の治療を担当している医師に伝えてください。研究の中でも、話し方を評価して診断名を付けているのは言語聴覚士です。入院やリハビリの期間であればその場でつながれますし、時間がたってからでも、成人の吃音を診る外来を持つ医療機関があります。評価では、どのくらい詰まるかだけでなく、本人がどう困っているかも見る必要があるとされています。

歌うときは普通に話せます。これは吃音ではないということですか?

そうとは限りません。歌やリズムのある発話で吃音が減ることは古くから観察されており、2024年の研究も、内的なタイミングの不調という考えの背景としてこの観察を挙げています。また、同じ文章を繰り返し読むと流暢になる現象や、遅れて聞こえる自分の声を使ったときに流暢になる現象は、子どものころからの吃音の大人に多く見られ、脳の損傷のあとの吃音では見られる人が少ないと報告されています。いずれも群ごとの傾向で、一人の診断を決めるものではありません。

まとめ

  • 脳梗塞など脳の損傷のあとに、それまで無かった吃音が出ることがある。獲得性(後天性)の吃音と呼ばれ、幼児期に始まる吃音とは区別されてきた。
  • 「脳のここが壊れると吃音になる」という一か所は見つかっていない。病変は左右の大脳・小脳・視床・脳幹と広く散らばっている。
  • その散らばった病変は、両側の被殻と左下前頭回を中心とする共通のネットワークにつながっており、別に集めた臨床データでも再現された。失語や構音障害など他の言語症状とは区別できたと報告されている。
  • 子どものころからの吃音と脳の損傷後の吃音は、どの語でどもりやすいかが重なっていた。「別物だ」という以前の主張は、実は確かめられていなかった。聞き分けは言語聴覚士でも難しいという報告がある。
  • 脳の病気やけがのあとの話しにくさは、失語や発語失行と重なることがある。自己判断せず、治療を担当している医師や言語聴覚士に伝えるのが確実。評価では、詰まる回数だけでなく本人の困りごとも見る必要があるとされている。

参考文献

  1. Theys, Jaakkola, Melzer et al. (2024) Localization of stuttering based on causal brain lesions. Brain.
  2. Max, Kadri, Mitsuya & Balasubramanian (2019) Similar within-utterance loci of dysfluency in acquired neurogenic and persistent developmental stuttering. Brain Lang.
  3. Lundgren, Helm-Estabrooks & Klein (2010) Stuttering Following Acquired Brain Damage: A Review of the Literature. J Neurolinguistics.
  4. Chang, Synnestvedt, Ostuni & Ludlow (2010) Similarities in speech and white matter characteristics in idiopathic developmental stuttering and adult-onset stuttering. J Neurolinguistics.
  5. 吃音ポータルサイト「吃音ってどんなもの?」
  6. 吃音ポータルサイト「吃音の問題あれこれ」

当事者の声の出典: V0109(岡山言友会「例会参加者の声」)/ V0380(note「どもりってかっこいい!」)/ V0294(note「大人になってから吃音外来を受診した話」)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開