新宿ボイスクリニックの吃音治療|間接法とは・平均3年・予約待ち

目次

「声の専門のクリニックがある。でも、あそこは声がかすれる人や喉を手術する人が行くところではないのか」——吃音で医療機関を探していると、耳鼻咽喉科の看板を掲げたクリニックにたどり着くことがあります。行けば診てもらえるのか。診てもらえたとして、そこで何が始まるのか。名前だけでは、そこから先がなかなか分かりません。

この記事は、新宿ボイスクリニックが公開しているリハビリテーション治療の案内を起点に、声のクリニックで吃音がどう扱われるのかを整理します。そのページに出てくる「間接法」という訓練が具体的に何をするものなのかは、国立障害者リハビリテーションセンターのリハニュースに載った解説と、発達性吃音(どもり)の研究プロジェクトの治療の解説で補いました。訓練の良し悪しを見分ける物差しは、ドイツの17の学会がまとめた診療ガイドラインに沿って説明します。あわせて、実際に声のクリニックや吃音外来を受診した4人の記録を置きました。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 新宿ボイスクリニックのリハビリテーション治療のページには、声帯結節などの器質性疾患に伴う音声障害、機能性発声障害、構音障害と並んで吃音のリハビリテーションが挙げられています。ただしこの記事を書いた時点では、吃音のリハビリテーションは予約待ちと案内されています。
  • 同じページには、吃音治療を検討している人に向けて、間接法による吃音訓練は成人でメンタル・リハーサル法を実施した場合に平均3年の治療期間を要すると書かれています。これは原則として月1回の面接と、日々の自宅練習をきちんと行った場合の目安期間とされています。
  • この方法での訓練では5年を超える治療は行わないと明記されており、治療期間には限度があることを理解したうえで、通院を続けられる環境を整えてから始めてほしいとされています。リハビリは完全予約制です。
  • その「間接法」は、話し方に直接手を加えない訓練です。日常生活では話すことへ意識を向けず、工夫や回避をしないように指導しながら、夜間寝る前に頭の中のイメージで毎日話す練習をします。声を出して言い方を直す直接法とは、発想がまったく違います。
  • このクリニックの吃音の訓練は正常域を目標に行う間接法であるため、精神障害者保健福祉手帳の申請のための診断書の作成は原則として難しいとされています。訓練の目的と逆行するから、というのがその理由です。

ただし、ここに書いたのは公開ページを開いた時点の案内で、受付の状況も治療の方針も変わりえます。受診を決める前に必ずご自身でクリニックのページを開き直してください。また、これは一つの医療機関の運用であって、他のクリニックが同じやり方をしているという意味でも、この方法が誰にでも合うという意味でもありません。

声のクリニックに、吃音で行っていいのか

ボイスクリニックという名前から想像するのは、声がかすれる、声が出ない、歌えなくなった——そういう喉の不調でしょう。吃音は喉そのものの病気ではないので、受付で断られるのではないかという不安が先に立ちます。

当事者の声(40代半ば・社会福祉士。吃音外来の紹介状をもらうために、近所にできたボイスクリニックを受診した日の記録。医師の言葉を本人が引いている/note)

診察が始まり、先生にこれまでの経緯を説明する時も、さほどつまらずに話せた。

なんで吃音がらみの行動を起こす時は、言葉がつっかえにくいんだろう?

先生「おそらく吃音でしょうね。まだ出てないみたいだけど。念のため、声帯の動きを確認しましょうか。」

鼻から内視鏡の管が入り、指定された言葉を発音してみるものの、やっぱりつっかえない。

検査が終わってお礼を言おうとした時、一文字目の「あ」が出なくなった。

無意識に手で身体をポン!と叩き、「……ありがとうございました。」と発音できた。

高齢者福祉の現場で相談員を務める40代半ばの人が、30年近く付き合ってきた話しにくさに正式な診断をもらおうと動き出した場面です。待合室では「吃音だけで本当に診てもらえるんだろうか」と思っていたと書かれています。診察室で行われたのは、鼻から細い内視鏡を入れて声帯の動きを確かめる検査でした。症状はそこでは出ず、検査が終わって礼を言おうとした瞬間に出た。この日、この人は紹介状を受け取り、総合病院の吃音外来へ進みます。声のクリニックで確かめられるのは、まず「喉の側に説明がつく原因があるかどうか」です。

出典: 吃音外来に行ってみました!受診体験記|吃音×社会福祉士(note)(台帳: V0252)

新宿ボイスクリニックのリハビリテーション治療のページには、四つの領域が並んでいます。声帯結節や声帯萎縮といった、声帯そのものに変化がある病気にともなう音声障害のリハビリテーション。心と体のつながりを取り入れて、自然な発声に戻るための考えと行動を指導する機能性発声障害のリハビリテーション。舌の筋力のバランスを整えながら、正しい発音のための動きを新しく身につけていく構音障害(発音のしかたがうまく作れない状態)のリハビリテーション。そして、吃音のリハビリテーションです。構音障害の項目には、大人でも滑舌や話し方に不安のある方は一度相談してほしい、とも書かれています。

つまり、声のクリニックが扱うのは「喉の病気」だけではありません。話し方や発音の訓練も、もともとこの枠の中にあります。言語聴覚士(ことば・聞こえ・飲み込みの専門職)は、主に病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科などのスタッフとして勤務している場合が多いとされており、吃音の訓練が耳鼻咽喉科の系列に置かれているのは、この職種の勤め先の分布とつながっています。ただし、この記事を書いた時点で、新宿ボイスクリニックの吃音のリハビリテーションは予約待ちと案内されており、あわせて別の吃音相談室のページへの案内が添えられています。

最初に「訓練」は始まらない — 何を聞かれ、何を測られるのか

受診の日を思い浮かべるとき、多くの人は練習が始まる場面を想像します。実際に最初に起きるのは、話し方を直すことではなく、これまでの経過をひたすら聞き取られることです。

当事者の声(同じ人の続報。総合病院の吃音外来で、2回目の受診が言語聴覚士との面談だった日の記録/note)

面談では、幼少期から現在までの経過を丁寧に聞き取っていく。 ・吃音の自覚がいつ頃からあったか ・症状の変化 ・親族に吃音の方はいるか ・日常生活や仕事への影響 ・自分なりに調べてきたこと …など

言語聴覚士さんが持つA4用紙は、あっという間に文字で埋まっていった。

初診で診断がつき、2回目に通されたのが言語聴覚士との面談でした。長年吃音に携わってきたベテランだと紹介され、穏やかさと冷静さを兼ね備えた印象だったと書かれています。聞かれたのは、自覚した時期、症状の変わり方、親族に同じ人がいるか、仕事への影響、そして自分で調べてきたこと。30年分がA4用紙一枚を埋めていく様子に、この人は「こんなに丁寧に聞き取ってもらえるんだ」と内心驚いたと記しています。評価で何を集めるかは、診療ガイドラインにも手順として定められています。

出典: 問診で気づいた『思考のクセ』。苦しみから抜け出すヒント|続・吃音外来体験記(note)(台帳: V0171)

ドイツの17の学会がまとめた診療ガイドラインは、客観的に評価するために、まとまった長さの連続した話し声を複数、録音または録画で記録するとしています。記録した音声は、どもった音節の割合、いちばん長く続いた詰まりの時間、話すときに一緒に出てしまう体の動きで分析されます。話し方の自然さは専門家ではない聞き手が評定し、必要なら治療に関わっていない専門家が重症度を判定する——治療する本人の見立てだけに頼らない、という決め方です。

「診察室では普通に話せてしまうのではないか」という心配にも、あらかじめ手が打たれています。表に出にくい吃音が疑われるときは、話をさえぎる、速く話すよう求めるといった負荷をかけて症状を引き出し、心理的な負担も質問紙に記録するとされています。国立障害者リハビリテーションセンター病院の成人吃音相談外来も、初診の日に問診・診察・検査を行う初診専用の外来として案内されています。最初の一日は、訓練の日ではなく、記録の日だと考えておくほうが近いということです。

「話し方を直す訓練」ではない — 間接法とは何をするのか

受診の前にいちばん想像しにくいのが、訓練の中身です。そして、期待していた中身と違ったときに、人はいちばん深く落ち込みます。

当事者の声(研究職の当事者・石黒栄亀さん。主治医の紹介で受診した吃音外来の2回目、終診を告げられた場面/日本吃音協会のメディア)

先生は少し黙ってうなずき「これで終わりにしましょう。私のアドレスをお教えしますので、困ったらいつでも連絡いただいて構いません」と言いました。

私はここで気づいたのです。 自分の言葉はもうこのままなんだ ということに。

それでもお礼を述べて診察室を出る間際「先生、私はこのままなんですか?」と聞いてみました。

先生はただ曖昧に微笑んだだけです。

会議で語頭の繰り返しが止まらなくなった日から、心療内科、耳鼻咽喉科と回り、3か月の予約待ちを経て特急列車で遠くの病院まで通った人です。初診で助言されたのは、スマートフォンのメモ機能、読み上げ機能、メトロノームのアプリを場面に応じて使い分けること。正直ちょっと肩透かしな気分だった、と本人は書いています。そして3か月後の2回目で終診になりました。訓練を受ける前に、その訓練が何を目標にしているのかを知っておくことは、この落差を小さくします。

出典: 大人になり悪化した吃音「先生、私はこのままなんですか?」(HAPPY FOX・日本吃音協会)(台帳: V0093)

大人の吃音の訓練は、大きく二つに分かれると説明されています。一つは、話し方に直接はたらきかける直接法吃音が出にくいように整えた話し方を身につける流暢性形成法(ゆっくり引き伸ばして話す練習などで、詰まりにくい話し方を作る方法)や、楽に吃ることを目標とする吃音緩和法がこれにあたります。もう一つが、発話そのものには働きかけない間接法です。

間接法の代表が、新宿ボイスクリニックのページに出てくるメンタル・リハーサル法です。話し方に直接アプローチはせず、日常生活では話すことへの意識を向けず工夫や回避をしないように指導しながら、夜間寝る前に頭の中のイメージで毎日話す練習をする、と説明されています。昼間は「うまく言おう」としない。夜、声を出さずに頭の中だけで話す。それがこの訓練の実体です。

どちらにも長所と短所があります。直接法では、本来その人が持つ話し方とは異なる、整えられた不自然な話し方になるため違和感を持つ人もいて、治療の効果を保ち続けるのが難しいという意見もあります。間接法は効果の維持は比較的よいものの、治療そのものに長い期間がかかります。新宿ボイスクリニックが、成人でメンタル・リハーサル法を実施した場合に平均3年の治療期間を要し、月1回の面接と日々の自宅練習をきちんと行った場合の目安だと最初に断っているのは、この長さのことです。そのうえで5年を超える治療は行わないとし、通院を継続できる環境を整えてから始めてほしいと書かれています。

青年期以降(大人)の吃音の訓練を、直接法と間接法の2つに分けて示した図。直接法は話し方に直接はたらきかける方法で、流暢性形成法と吃音緩和法があり、本来の話し方とは異なる不自然な話し方になること、治療効果の維持が難しいという意見があることが挙げられている。間接法は発話には直接働きかけない方法で、代表がメンタルリハーサル法。夜に寝る前、頭の中のイメージで毎日話す練習をし、日常生活では話すことへ意識を向けず、工夫や回避をしないように指導される。効果の維持は比較的良いが、治療自体に平均2〜3年かかり、うつ病など精神疾患の合併があると用いることができない
図1: 「間接法」は、話し方そのものには手を加えない訓練。出典: 北條具仁「〔トピックス〕青年期吃音に対する認知行動療法を用いた最新治療」(国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.361)

なお、成人では言語訓練だけで解決しないことも多いとされています。統合的な方法だけで改善する例は少なく、過半数で心理面への対応が必要になるとされ、認知行動療法(考え方のクセと行動の両方にはたらきかける心理療法)やメンタルリハーサル法、シャドーイング、わざとどもって見せる随意吃による開示までが挙げられています。随意吃などで吃ることを周りに伝えると心理的負担が減り、楽にコミュニケーションができるようになる、という説明です。「話し方を直す」以外の道筋が、はじめから訓練の選択肢に入っているということです。

治らなくても、相談できる場所があるということ

治療期間が年単位だと知ると、「それなら行かなくていい」と考えたくなります。けれど、受診して得られるものは、話し方の変化だけではありません。

当事者の声(30代前半のときに通える範囲の病院に吃音外来ができ、人生で初めて言語聴覚士に相談した人/note)

通院して完治したわけではない 通院して吃音に関する悩みが全て解決したわけではない

だが少なくとも、相談することで気持ちが楽になった

1か月に1回でも2か月に1回でも 相談できる専門家が近くにいるということが、こんなにも安心感につながるのか! ということをものすごく実感できた

30年以上、どうしたらいいか分からないまま吃音と過ごしてきた人が、通える範囲の病院に外来ができたことをきっかけに、初めて専門職に相談した経緯を書いています。書き手はそのあと、自分が外来を「ありがたい」と思っていたことに引っかかりを覚えます。ありがたいとは、めったにないという意味でもあるからです。専門家に相談して一緒に考える、そこがスタートラインではないか——30年間スタートラインにすら立っていなかったのではないか、と自問しています。治療の目標は、症状を消すことだけではないと定められています。

出典: 吃音外来を「ありがたい」と思った違和感の正体(note「吃音楽」)(台帳: V0170)

診療ガイドラインは、治療が目指すものを世界保健機関の国際生活機能分類(生活のしづらさを、体の状態だけでなく活動や社会参加まで含めて捉える枠組み)にそって定めています。中核となる症状を減らすか話しやすさを高めることで、絶えず自分を監視しなくても心理的にも運動的にも楽に話せるようにすることを第一に置きます。あわせて、話すときに出てしまう体の動きや心理的な負担を減らし、社会参加・活動的な生活・生活の質によい影響を与えるべきだとしています。

だから、症状が軽ければ受診しなくてよいとは書かれていません。心理的な負担があれば、周りから見て分かりにくい吃音であっても治療が必要になりうるとされ、その理由として、吃音の重さとそうした負担は強くは相関しないことが挙げられています。自助グループへの参加も推奨されていますが、その根拠は効果を測った研究ではなく専門家の合意にもとづくものだと明記されています。日本でも、言友会などの当事者の集まりは、言語聴覚士のような学術的な知識や専門的な指導・支援が受けられる場ではないとはっきり書かれたうえで、同じ問題を持つ仲間と出会い、そこでしか得られないものがあることも事実だとされています。

その訓練を選んでよいか — 診療ガイドラインの物差し

大人の吃音の訓練には、医療機関のもの以外にも多くの方法が流通しています。どれを選ぶかを決める前に、効果が確かめられている訓練に共通していた要素を知っておくと、判断の助けになります。

系統的な調査から、青年・成人に効果のあった治療に共通する要素が挙げられています。まずゆっくりした話し方を集中的に練習すること、集団での練習を含むこと、練習の場から日常の場面へ持ち出す練習をすること、段階を追って自分で評価し自分で管理することを含むこと、不自然に聞こえない話し方を目指すこと、続けるためのプログラムを含むこと、そして引き伸ばした話し方・やわらかい声の出だし・リズムをつけた話し方・呼吸の調整・話すことへの気持ちの持ち方の練習を行うことです。

逆に、行うべきでないとされているものもあります。薬による治療は、行うべきでないと強く否定されています。リズムをつけた話し方や呼吸の調整を唯一の、あるいは中心の柱にすること、催眠、それに何をどうするのかが分かる形になっていない吃音療法も、勧められないとされています。ただし、こちらは勧められないという判断の根拠自体はまだ強くありません。

さらに、避けるべき手続きが六つ並べられています。日常生活へ持ち出す手立てを含まない、ぶり返したときの備えを含まない、短期の成果はあるが長期に追いかけた観察がない、呼吸の変え方やリラックスだけに頼る、吃音の原因やぶり返しの責任を本人や家族に負わせる、そして治ることを約束し、治療の目標とやり方を分かる形で説明しない——この六つです。最後の一つは、そのまま広告の読み方になります。新宿ボイスクリニックが、始める前に平均の期間と上限をページに書いているのは、この逆の形にあたります。

薬についても補足があります。吃音に有効性が確立された薬物はないが、3分の1程度の症例に有効だと報告されているものはある、とされたうえで、吃音が適応として保険収載されている薬はない、と明記されています。吃音が原因となった二次的な抑うつや社交不安障害に対して薬物療法が行われることはある、という説明です。治療の中心は環境調整、言語訓練、カウンセリング、心理療法・行動療法であり、どの患者にも一様に有効な方法はないので、患者に応じてしばしば組み合わせて用いるとされています。

効いているかどうかを確かめる目安もあります。国立障害者リハビリテーションセンターのリハニュースで紹介されているグループでの取り組みは、発想の転換として、症状を軽くするための意図的で自然ではない話し方の制御は練習せず、自然で楽な発話の力を強化していくと説明しています。掲げる目標は、吃ることをほとんど忘れて自然に話せる力が自分にあると理解して使うこと、コミュニケーションの目標を「吃らない」以外の前向きで具体的なことにすること、吃音に注意を取られずに自分の向けたい方へ注意を向けられるようになることの三つです。

そこに通えないときの、別の入口

予約待ちだった、通える距離ではなかった、条件に当てはまらなかった——一つの医療機関で止まらないために、ほかの道筋も並べておきます。

新宿ボイスクリニックのページには、受け入れの条件も書かれています。リハビリは完全予約制で、予約当日のキャンセルや無断キャンセルが複数回あった場合は、その後の診察・治療を断ることがあるとされています。また、発達障害や他の精神科の病気を合併している場合に、治療を開始できないこともあると明記されています。条件に当てはまらないことは珍しくない、という前提で探し始めるほうが消耗しません。

この「合併している場合」は、実は少数派ではありません。国立障害者リハビリテーションセンターの成人吃音外来の初診患者を対象にした調査では、初診患者の3分の1に精神科の通院歴があり、これを含めた52.3%(102人)に精神疾患の併存がありました。自閉スペクトラム症は26.4%(52人)に併存し、精神疾患の中で最も多い診断でした。併存していた52人のうち精神科の通院歴があったのは40.3%(21人)で、そのうち自閉スペクトラム症と診断されていたのは2人だけでした。すでに知られている病気の影に別の病気が隠れてしまう現象は diagnostic overshadowing と呼ばれ、吃音はその起点になりやすいと説明されています。話しにくさだけを訴えに行くと、別の困りごとが見えなくなることがある、ということです。

大人を対象にした専門の外来としては、国立障害者リハビリテーションセンター病院の成人吃音相談外来があります。初診専用の外来で、予約センターで専門外来の予約を取ったうえで受診する形です。ただしこちらの案内にも、受診希望者が多く予約が取りにくくなっている旨が添えられています。名前のついた専門外来は、どこも同じように混んでいます。

看板のない医療機関を当たる道もあります。言語聴覚士は国家資格で、養成課程には吃音が含まれており、吃音のある人の指導・支援の中核を担う存在として役割が期待されています。ただ、扱う業務が多岐にわたるため、必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではありません。そこで、病院などに直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねる手順が案内されています。

距離が理由なら、届け方を変える選択肢もあります。同じ内容の言語聴覚療法を、対面か遠隔かという届け方だけ変えて比べた試験を集めたレビューでは、吃音のある人について、どもった音節の割合に治療の直後から18か月後までのどの時点でも有意な差はありませんでした。研究間のばらつきもごく小さいものでした。大人の試験では、電話で話すことのしやすさの評価に差はなかった一方、遠隔での治療のほうが「とても便利」と評される頻度が有意に高かったと報告されています。ただし同じレビューは、無作為に振り分けて比べた試験の数が少ないことを最大の限界に挙げ、生活の質や満足度、費用についての根拠も乏しいと断っています。

大人を対象に遠隔(電話)と対面を比べた無作為化比較試験1件(合計40人・遠隔20人・対面20人)の結果を4つ並べた図。自分でつけた吃音の重さ(1〜9の自己評定)は遠隔2.3・対面2.4で差なし(p=0.7)。治療を終えるまでの言語聴覚士の接触時間は遠隔617分・対面774分で差なし(p=0.17)。「電話で話すのはとても簡単」と答えた人はどちらの群も同じくらいで差なし(p=0.4)。治療が「とても便利」と評された頻度だけは遠隔のほうが多く、有意な差があった(p=0.018)。この大人の試験は1件だけで、生活の質と満足度の根拠は乏しいと原典が断っている。2025年の系統的レビューが要約した値
図2: 大人の試験では、結果に差が出ていない。差がついたのは「便利さ」の評価だけ。出典: Scott, Clark, Cardona et al. (2025) J Telemed Telecare.

声のクリニックを受診先に選ぶときの3つの落とし穴

落とし穴1 − 「通えば話し方を直してもらえる」と思って行く

新宿ボイスクリニックの吃音の訓練は間接法で、話し方に直接アプローチはしません。日常では話すことへの意識を向けず、夜間寝る前に頭の中のイメージで毎日話す練習をする方法です。声を出して言い方を整える直接法とは目的も手順も別物です。何をする訓練なのかを先に読まずに通い始めると、想像していた練習が始まらないまま月日が過ぎます。治療の目標とやり方を分かる形で説明しないことは、避けるべき手続きとして挙げられています。

落とし穴2 − 期間と上限を見ないまま始める

案内には、成人でメンタル・リハーサル法を実施した場合の治療期間は平均3年で、原則として月1回の面接と日々の自宅練習をきちんと行った場合の目安だと書かれています。さらに5年を超える治療は行わないとし、通院を継続できる環境を整えてから始めてほしいとされています。転勤や進学の予定、月1回の通院を数年続けられるかを先に確かめておかないと、途中で止まった訓練だけが残ります。

落とし穴3 − 手帳や職場への説明が目的なのに、訓練の外来に行く

このクリニックの吃音の訓練は正常域を目標に行う間接法であるため、精神障害者保健福祉手帳の申請のための診断書の作成は、訓練の目的と逆行するとして原則難しいとされています。目的が制度の利用なら、その医療機関が診断書を書いてくれるかを受診の前に確かめる必要があります。職場への配慮を求める場面では、診断書が必要とされることが多いとも説明されています。

受診までの待ち時間は、空白にしなくて構いません。どんな場面で詰まりやすいか、そのとき体に何が起きているかを書き留めておくと、限られた面談の時間で伝えられることが増えます。評価では、いつ自覚したか、症状がどう変わってきたか、生活や仕事へどう影響しているかまで聞き取られるからです。

よくある質問

新宿ボイスクリニックで、いま吃音のリハビリを受けられますか?

この記事を書いた時点の公開ページでは、吃音のリハビリテーションは予約待ちと案内されており、別の吃音相談室のページへの案内が添えられています。リハビリは完全予約制です。状況は変わりますので、受診を考えるときは必ずご自身でクリニックのページを開いて最新の案内を確かめてください。

間接法(メンタル・リハーサル法)とは、具体的に何をするのですか?

話し方に直接アプローチはせず、日常生活では話すことへ意識を向けず、工夫や回避をしないように指導しながら、夜間寝る前に頭の中のイメージで毎日話す練習をする方法だと説明されています。効果の維持は比較的よいとされる一方、治療自体に長い期間がかかるとも書かれています。クリニックの案内では、成人で実施した場合に平均3年の治療期間を要するとされています。

どれくらい通うことになりますか。終わりはありますか?

公開ページには、原則として月1回の面接と、日々の自宅練習をきちんと行った場合の目安として平均3年と書かれています。あわせて、この方法による訓練では5年を超える治療は行わないと明記されており、治療期間には限度があることを理解したうえで、通院を継続できる環境を整えてから治療を開始してほしいとされています。

障害者手帳の診断書は書いてもらえますか?

このクリニックの吃音の訓練は正常域を目標に行う間接法であるため、精神障害者保健福祉手帳の取得は訓練の目的と逆行するとして、原則としてこのクリニックでの申請用の診断書の作成は難しいとされています。制度の利用が目的の場合は、受診の前にその医療機関が診断書を扱っているかを確かめてください。職場に配慮を求める場面では診断書が必要とされることが多いとも説明されています。

発達障害や精神科の病気があっても受けられますか?

公開ページには、発達障害や他の精神科の病気を合併している場合に、治療を開始できないこともあると書かれています。併存は珍しいことではなく、成人吃音外来の初診患者を対象にした調査では52.3%に精神疾患の併存があり、自閉スペクトラム症は26.4%に併存していたと報告されています。併存が分かれば、そちらに適した対応が取れるようになるとも説明されています。

まとめ

  • 新宿ボイスクリニックのリハビリテーション治療のページには、音声障害・機能性発声障害・構音障害と並んで吃音のリハビリテーションが挙げられているが、取得時点では予約待ちと案内されている。
  • 行われるのは間接法による訓練で、成人でメンタル・リハーサル法を実施した場合は平均3年、月1回の面接と日々の自宅練習を前提とした目安とされ、5年を超える治療は行わないと明記されている。
  • 間接法は、日常では話すことへ意識を向けず、夜間寝る前に頭の中のイメージで毎日話す方法で、声を出して言い方を整える直接法とは発想が違う。
  • 正常域を目標とする間接法であるため、精神障害者保健福祉手帳の申請用の診断書の作成は原則難しいとされ、発達障害や他の精神科の病気の合併があると治療を開始できないこともある。
  • 通えないときは、国立障害者リハビリテーションセンター病院の成人吃音相談外来や、日本言語聴覚士協会・都道府県の言語聴覚士会への問い合わせが案内されている。届け方を変えても吃音の結果に差は出ていない。

参考文献

  1. 新宿ボイスクリニック「リハビリテーション治療」(2026年9月12日取得)
  2. 北條具仁「〔トピックス〕青年期吃音に対する認知行動療法を用いた最新治療−グループ介入研究のご紹介−」(国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.361)
  3. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「治療の解説」(kitsuon-kenkyu.umin.jp)
  4. 吃音ポータルサイト「成人の方 ─ 相談や支援」
  5. 国立障害者リハビリテーションセンター病院「成人吃音相談外来」
  6. 国立障害者リハビリテーションセンター 病院リハニュース No.370〔特集〕「吃音がある自閉スペクトラム症の人への対応」
  7. Neumann et al. (2017) The Pathogenesis, Assessment and Treatment of Speech Fluency Disorders. Dtsch Arztebl Int.
  8. Scott, Clark, Cardona et al. (2025) Telehealth versus face-to-face delivery of speech language pathology services: A systematic review and meta-analysis. J Telemed Telecare.

当事者の声の出典: V0252(note「吃音×社会福祉士」アオノ ケイさん・ボイスクリニックから吃音外来までの受診記)/ V0171(同・2回目の受診の記録)/ V0093(日本吃音協会 HAPPY FOX・石黒栄亀さんの手記)/ V0170(note「吃音楽」・吃音外来を「ありがたい」と思った違和感)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開