吃音は兄弟にうつる?|伝染ではなく体質・一人だけ残る理由・きょうだいへの接し方

吃音は兄弟にうつる?|伝染ではなく体質・一人だけ残る理由・きょうだいへの接し方
目次

「兄が吃音だと、弟にもうつるの?」「下の子が生まれてから、上の子がどもり始めた」「兄と姉は治ったのに、末っ子だけ残った」——きょうだいの誰かに吃音があると、家の中の出来事がそのまま原因に見えてきて、誰かのせいを探してしまいますよね。

この記事は、結論を先に置いてから、同じ問いを抱えた5人の声と、研究や公的資料が何を言えているのかを一つずつ並べていきます。拠り所にしたのは、日本吃音・流暢性障害学会の解説、国立障害者リハビリテーションセンターが運営する発達障害ナビポータルの資料、金沢大学・九州大学・北里大学・筑波大学の研究者が日本の3歳児健診で行った調査などです。遺伝率という数字の読み方や双子研究の細かい中身は遺伝と回復の記事母親からの遺伝の記事に譲り、ここでは「きょうだいのいる家の毎日」に絞ります。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 吃音は、そばで聞いたり真似したりして「うつる」ものではありません。学会は「話し方を真似すると吃音になる(伝染する)」を俗説と位置づけ、2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究で、環境よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったとしています。
  • 「下の子が生まれて愛情不足になった」も、かつて語られた原因論の一つで、いまは体質の側が主とされています。診療ガイドラインも、きょうだいが共有する家庭環境は原因ではないか、あってもごくわずかだと述べています。
  • 家族の中に複数いることは珍しくありません。吃音のある人213人の家族を調べた研究では、兄弟の約2割・姉妹の約1割に吃音がありました。日本の3歳児調査でも、家族に吃音のある人がいる子は吃音のある見込みが高くなっています。
  • きょうだいで経過が分かれるのも、珍しくありません。家族に吃音のある人がいる子は続きやすい一方で、その家族が治ったか続いたかでは差が検出されていません。
  • 家庭でできることは、きょうだいが先を争って話すときは「順番に話す」ルールを設けること、短くてもよいので毎日、一対一でじっくり関わる時間を持つことです。

ただし、家族歴は「続きやすさ」を平均として動かす手がかりの一つであって、一人ひとりの見通しではありません。ガイドラインも、遺伝の数字は集団についての概念で、個々の事例について結論を出すものではないと明記しています。家族歴のない子も続くことがあり、ある子も多くは治ります。数字は「どちらのせいか」を決めるためではなく、「誰のせいでもない」と知るために使ってください。

「下の子が生まれてから、上の子がどもり始めた」——私のせい?

二人目の出産や入院は、家庭の一大事です。上の子の吃音がその直後に始まると、多くの保護者は、出来事と出来事を線で結んでしまいます。

長男が2歳半のとき次男が生まれた母の声(NPO法人の子育て相談コラムに寄せられた体験。長男は25歳になっている)

長男が2歳半の時に次男が生まれ早産だったこともあり、産まれてからひと月ほど入院をしなくてはなりませんでした。入院中は冷凍した母乳を毎日病院に運んだり、退院してからも外出には何かと制限がありました。

それでも長男は、わがままを言わずわが家におこった一大事をじっと我慢していました。

こんな経験がストレスになったのか半年くらいすると長男に吃音が出始めます。気にすればするほど私も敏感になり病院に相談にも行きました。

次男が早産で1か月入院し、母乳を毎日運び、外出も制限された——その半年後に長男の吃音が始まったと、この母親は書いています。「こんな経験がストレスになったのか」と、原因を家の出来事に求めているのは、書き手自身です。病院にも相談に行っています。手記はこのあと、夫婦で話し合い、朝の散歩は父親が担い、絵本の読み聞かせは下の子が泣いても中断しないと決めた日々へ続き、25歳になった長男には当時の記憶がまったくない、と結ばれます。では、「下の子が生まれたから」という見立てそのものは、いまの研究ではどう扱われているのでしょうか。

出典: 弟ができた兄に吃音と円形脱毛症が(子育てIdea Box・NPO法人ハートフルコミュニケーション)(台帳: V0035)

国の発達障害ナビポータルは、吃音の原因論として「利き手を矯正したことが悪い」「下の子が生まれて愛情不足が原因」「習い事のストレスが悪い」など、環境、とくに養育者を原因とする説が言われてきた歴史があると整理したうえで、双子研究では原因の約8割はその子の生まれ持った体質であることが示されていると述べています。同じ資料は、発症の4割はある日急に始まることも挙げています。

ドイツの診療ガイドラインは、双子研究の結果から、きょうだいが共有する家庭環境は原因ではないか、あってもごくわずかで、幼い頃の家庭環境、つまり親と子のやりとりは吃音の発生にほとんど寄与しないと明記しています。家族単位で調べた初期の研究でも、不安や家庭の中の言葉づかいへの態度といった、遺伝以外の要因が家族内の吃音に効いているという証拠は見つかっていません。

発症の多い時期は2〜4歳です。下の子が生まれるのも、しばしば同じ年頃です。二つが同じ時期に重なって見えるのは、そのためかもしれません。上の手記の母親が「ストレスになったのか」と考えたのは自然なことですが、研究の側は、家庭の出来事を原因とは見ていません。

「兄弟にうつる」は本当か——上の子が自分を責めるとき

「うつる」という言葉は、家庭の中で、吃音のある側のきょうだいに突き刺さります。誰かに言われなくても、です。

自身にも弟にも吃音がある20代女性の当事者の声(個人ブログのエッセイ)

私には弟がいるのだけれど、私と同じ吃音がある。弟も保育園の頃からことばの教室に通ってた。

親や周囲に言われたことはないけど、小学生の頃からずっと、弟が吃音になってしまったのは、私の喋り方がうつっちゃったんだと、弟の声を聞くたびに自分を責めた。

弟は保育園の頃からことばの教室に通っていた。姉である書き手は、小学生の頃から、弟の声を聞くたびに「私の喋り方がうつった」と自分を責めてきたと書いています。親や周囲に言われたことは一度もない、と本人が断っているのが、この手記の重さです。毎日いっしょにいて、自分の話し方を聞かせていたから——理由は、自分の中で組み立てられました。大学を卒業してしばらくまで、自分の吃音は家族と一部の先生以外に徹底して隠していた、ともあります。「真似すると吃音になる」という考えは、この人だけの思い込みではなく、社会に長くあった俗説でした。

出典: 吃音は兄弟でうつるのかな(note)(台帳: V0089)

日本吃音・流暢性障害学会は、「吃音のある人の話し方を真似すると吃音になる(伝染する)」という俗説があり、吃音のある子とは遊んではいけないという差別があった(今もあるかもしれない)としたうえで、2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究により、環境的要因よりも生まれ持った体質的な要因が吃音の原因の多くを占めることが分かったと述べています。

「聞いて真似る」という経路そのものも、調べられています。吃音のある親に養子として育てられた子どもで、吃音の割合が一般の子どもより高いという証拠は見つかりませんでした。研究の規模が小さく統計的な力は弱いという但し書きつきながら、親がどもるのを聞いて子どもがどもるようになるという見方は否定される方向だと、遺伝の総説はまとめています。調べられたのは親子であって、きょうだい同士ではありません。それでも、毎日そばで聞いている大人の話し方が原因にならないなら、きょうだいの話し方を原因と考える根拠もありません。きょうだいが共有する家庭環境は原因ではないというガイドラインの記述も、同じ向きです。

家族の中に吃音が集まりやすいこと自体は、事実です。かつてはその事実を、育て方が家族の中で受け継がれるからだと説明する説があり、30年以上にわたって世界的に受け入れられていました。しかし「集まる」理由は、同じ家で聞いて育ったことではなく、体質を共有していることにある——それが、いまの研究の答えです。

兄も姉も治ったのに、自分だけ残った

同じ家で、同じように育ったきょうだいの吃音が、一人だけ残る。「何が違ったのか」という問いは、本人にも親にも長く残ります。

当事者本人の声(吃音歴40年超・福祉の事業所責任者。5歳上の兄と3歳上の姉がいる3人兄弟の末っ子/自助団体が運営する当事者メディア)

私には5歳上の兄と3歳上の姉がいて、3人兄弟の末っ子です。兄も姉も吃音がありましたが、小学校入学前には消失したようでした。従妹にも吃音が消失した人や続いている人もいました。

兄も姉も、小学校に入る前には吃音が消えたようだった。いとこにも、消えた人と続いている人がいた。そして末っ子である書き手には、40年を超えて残りました。手記はこのあと、親から「ゆっくりお話しするんだよ」と何万回も言われたこと、保育園でどんぐりを食べたから吃るのだといじめられたこと、演劇でうぐいす役の一言が出なかったことへと続きます。同じ家系に、消えた人と続いた人が並んでいる——この一家の姿は、研究の側が「回復する吃音と持続する吃音は別の病気なのか」と問いを立てたときに見ていたものと、そのまま重なります。

出典: 私の吃音との向かい方(HAPPY FOX/NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0067)

幼児期に発症した子を追った研究をまとめた総説は、回復は吃音の軽い型ではなく、かといって回復する吃音と持続する吃音が独立した障害でもない、と結論づけています。データは、両方の型が共通の主要な遺伝子を共有し、持続する吃音にはさらに、多くの遺伝子が少しずつ関わる成分が加わることを示唆したとされます。つまり、兄と末っ子は「別の吃音」だったのではなく、同じ体質を受け継いだうえで、続くかどうかを分ける別の要素が加わった——と読むのが研究の見方です。

同じ総説が紹介する追跡研究では、持続した子の88%に家族歴があり、自然回復した子では65%でした。子どもを先に集めてその後を追った研究を統合したメタ分析(複数の研究の結果を合わせて調べる方法)では、家族歴のある子は持続しやすく、その比は1.89倍でしたが、家族が持続型か回復型かで分けた解析では差は検出されませんでした。就学前の子を追った別の研究でも、家族歴のある子の67%が持続し、ない子では24%で、家族の転帰によらず家族歴の有無が最も強い予測因子だったと報告されています。ただしこの推定は幅が広く、精密ではないと著者ら自身が断っています。

幼児期に発症した子123人を追いかけた研究で、家族に吃音のある人がいた割合を、その後の経過で分けて比べた図。吃音が続いた子では88%に家族歴があり、自然に治った子でも65%に家族歴があった。家族歴は、続いた子に多い一方で、自然に治った子にも多く見られたことを示す
図1: 家族歴は、続いた子にも、自然に治った子にも多かった。出典: Kraft & Yairi (2012) Folia Phoniatr Logop.(同総説が紹介する Yairi と Ambrose の追跡研究 n=123 の報告値)

「兄は治ったからこの子も治る」とも「姉が続いたからこの子も続く」とも言えないのは、こうした理由です。家族歴が動かすのは「続きやすさ」の平均であって、きょうだいの一人が治ったことは、もう一人の見通しを決めません。遺伝率という数字の意味や、自然に治る割合の幅は、遺伝と回復の記事に譲ります。

就学前に発症した子51人を追跡し、家族歴のある子とない子で吃音が続いた割合を比べた図。家族に吃音のある人がいた子は67%が続き、いなかった子は24%が続いた。家族歴があると続きやすいが、いた子の3分の1は続かず、いなかった子にも続いた子がいることを示す。なおこの推定の幅は広く、精密ではないと著者らが明記している
図2: 家族歴のある子とない子で、吃音が続いた割合。出典: Walsh, Christ & Weber (2021) J Speech Lang Hear Res.(オッズ比を持続の確率に直した値。著者らは「効果は大きいが推定は精密ではない」と断っており、推定のぶれの幅(95%信頼区間のこと)はおよそ1.8倍から22倍と広い)

二人とも吃音でも、出方は違う——弟で知っていたのに、兄では気づけなかった

きょうだいで二人とも吃音がある家庭では、先に分かった子の症状が「吃音とはこういうもの」という基準になります。それが、もう一人の吃音を見えなくすることがあります。

高等専門学校5年生の息子の母の声(東京都。下の息子にも吃音があり、その子の通うことばの教室に上の息子も1年ほど通った/自助団体の会報に掲載された手記)

幸か不幸か、弟も吃音であるため、弟が通うことばの教室に、兄も一年ほど連れていった。だから私にも吃音の知識は多少ある。その中途半端な知識が先入観となり、弟とはどもり方の違う、兄が吃音であることが納得できなかったのだ。それをとっぱらって考えてみれば、ひとつひとつ合点がゆくことばかりだ。ジグソーパズルがピタッとはまった感じ、謎がとけて、目の前が晴れた感じだ。

上の息子が学校では一切発表しないこと、人前で話せなかったことの理由が、自助団体の親子キャンプに参加してはじめて「吃音」だと分かった——と、この母親は書いています。下の息子の吃音は知っていて、ことばの教室にも通わせていた。だから知識はあった。その「中途半端な知識」が先入観になり、弟と違うどもり方をする兄を吃音だと納得できなかった、というのがこの手記の核心です。息子は高等専門学校の5年生、就職か進学かを決める時期でした。吃音の出方が一つではないことは、公的資料が症状の型として整理しています。

出典: 第19回吃音親子サマーキャンプ 参加者の手記(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」)(台帳: V0214)

吃音の主な症状は3つに分けられます。音を繰り返す連発「ぼぼぼぼくは」、引き伸ばす伸発「ぼーーーーくは」、言葉がなかなか出ない難発「・・・・ぼくは」です。同じ「吃音」でも、どの型が目立つかは子どもによって違い、しかも年齢で変わります。思春期以降になると、連発や伸発よりも、最初の音が出しにくくなる難発が中心になります。

さらに、吃音には状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりする性質があり、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月続く「波」もあります。相談の場では、目の前で思ったほど症状が出ないことが多く、それを見た相談相手が「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と言葉をかけることは、養育者にとってプラスに働くことは少ないと公的資料は注意しています。

弟の症状を知っているからこそ、兄の違う出方が吃音に見えない。この手記で「学校では一切発表しない」「人前では話せない」と見えていたものが、実は吃音だった——出方が違えば、いちばん近くにいる大人でも気づけないことがあります。症状の幅と波を知っておくことは、二人目の吃音を見逃さないための備えになります。

吃音のないきょうだいは、どこにいればいいのか

家族の関心が吃音のある子に集まるとき、もう一人の子はどこに立てばいいのでしょう。吃音のないきょうだいのことは、多くの場合、親の迷いとして語られます。

吃音のある兄と、その真似をする妹の母の声(島根スタタリングフォーラム「親の話し合い」の記録。匿名の保護者の問いに、進行役の日本吃音臨床研究会会長が答えている)

妹が兄の真似をして兄のプライドを傷つけられているようです。夜尿が直らず、小児科ではストレスが原因ではないかと言われています。妹が真似をすることで辛くなっていると思います。叱った方がいいですか。

伊藤 あまりきつく叱らない方がいいと思います。「そんなにお兄ちゃんの真似をしていたら、お兄ちゃんと同じような話し方になるから、仲間になれるね」くらいで軽く受け流した方がいい。

妹が兄の話し方を真似する。兄はそれで傷ついているように見える。叱るべきか——島根で開かれた親の話し合いで、ある母親がそう尋ねました。進行役の答えは、きつく叱らないほうがいい、というものでした。そして続けて、兄弟関係は大事で、家庭の中で吃音がタブー視されずオープンに話題にされていることのほうが大きな意味がある、と述べています。同じ話し合いには、下の子が姉をからかうようになったので「姉がタタタ…ということについて話す会に行くんだよ」と言って連れてきた、という別の母親の発言もあります。家庭できょうだいの間に何を整えるかについて、公的な資料は行動のレベルで書いています。

出典: 第7回島根スタタリングフォーラム 親の話し合い(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」)(台帳: V0115)

家庭での接し方をまとめた資料は、きょうだいで保護者に先を争うように話しかける状況があるなら「順番に話す」というルールを設け、話している最中に割り込まれないようにすること、短い時間でよいので毎日、子どもと保護者が一対一でじっくり関わる時間を設けること(夜寝る前、お風呂の中、園や学校から帰っておやつを食べる時間など)を挙げています。「順番に話す」は吃音のある子を守るためのルールですが、読み替えれば、吃音のない子の話も同じ重さで聞くというルールでもあります。一対一の時間も、吃音のある子だけのものにしないほうが、家の中の公平さは保ちやすいはずです。

学会は、吃音をタブーにせず、親子で吃音について話ができる関係づくりを心がけ、「どもってもよいから、たくさんおしゃべりしてね」というメッセージを伝えるようにと書いています。この「話せる関係」の輪に、きょうだいも入れておくこと——真似をする妹を叱るべきかという母の問いに、進行役が「タブー視されず、オープンに話題にされている」ことの意味で答えた上の記録は、その必要をそのまま示しています。周囲の子どもは、概ね4歳くらいになると違いを不思議に思い、「なんで『あああ』ってなるの?」といった指摘を始めることがあります。家の中では、その最初の一人が下のきょうだいになることもあるでしょう。

祖父母から母親の育児態度が責められることもあるため、祖父母も交えた情報共有が必要だと公的資料は述べています。同じことは、きょうだいにも当てはまるはずです。学校の場面については、担任や養育者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになるとされています。家の中で、きょうだいの真似やからかいが起きていないかも、同じ聞き方で確かめられます。

家族の中に複数いるのは、珍しいことなのか

吃音の遺伝研究を振り返った総説によると、英国で吃音のある人213人の家族を調べた研究では、親・きょうだい・子といった近い血縁(第一度近親)に吃音のある割合は13.65%で、一般集団で期待される5%をかなり上回りました。続柄別では、母親6.8%・父親19.1%・姉妹8.4%・兄弟20.3%です。兄弟のほうが姉妹より高いのは、吃音に男性が多いという性別の要因を反映しています。最もリスクが高いのは女性の吃音者の男性親族で、最も低いのは男性の吃音者の女性親族でした。

別の総説は、一致する割合(一方に吃音があるとき、もう一方にもある割合)を、一卵性の双子で約70%、二卵性の双子で約30%、同性のきょうだいで18%と整理しています。一卵性の双子は二卵性より一貫して一致しやすく、遺伝の関与を強く示す一方、一卵性でも一致は完全ではなく、遺伝だけでは吃音のすべてを説明できないことも、双子研究の共通した結論です。双子の数字の読み方は、母親からの遺伝の記事で詳しく扱っています。

日本のデータもあります。5つの県の3歳児健診で行われた調査では、健診時点で約6.5%の子に吃音があり、過去にあった子を含めると8.9%でした。家族に吃音のある人がいる子は、吃音がある見込み(統計ではオッズと呼びます)が3.27倍でした。同じ解析には「きょうだいがいるか」も要因として入れられていましたが、吃音と結びついたのは家族歴・保護者の発達の心配・診断のある病気や障害の3つで、きょうだいの有無はその中に入りませんでした。ただし、この3つを合わせても説明できたのは発症のばらつきの5.3%にとどまると、著者らは述べています。

日本の3歳児1,260人について、10の要因を同時に入れて求めた調整オッズ比のうち4つを並べた図。1倍が「差なし」。家族に吃音のある人がいることは3.27倍、診断のある病気や障害があることは2.13倍、保護者が発達を心配していることは1.75倍で、いずれも吃音と結びついた。きょうだいがいることは1.64倍だったが、見積もりの幅が0.90〜3.00で1倍をまたぐため、差とは言えなかった
図3: 日本の3歳児健診の調査で、吃音と結びついた要因と、結びつかなかった「きょうだいの有無」。出典: Sakai et al. (2025) Folia Phoniatr Logop. 表4(調整オッズ比。この解析で説明できたのは発症のばらつきの5.3%)

もう一つ、日本ならではの数字があります。吃音のある群で家族歴ありと答えた割合は27.4%で、海外の多くの調査(20〜74%)の下のほうに位置していました。著者らはその理由として、日本では吃音への偏見が強く、家族が吃音を家の中で隠し、研究者に対しても申告をためらった可能性を挙げています。「実は父も」「実は叔父も」と、子どもの吃音がきっかけで家族の吃音が初めて語られることがあるのは、この事情と無関係ではないかもしれません。

相談先と、きょうだいのいる家庭で伝えておきたいこと

相談先は、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員です。幼児吃音臨床ガイドラインは、積極的な介入(月2回以上の指導)を始める時期について、年少組までは経過観察的な支援を基本とし、年中組で開始を検討し、年長組で開始を推奨するとしています。

きょうだいのいる家庭では、相談のときに次の点を伝えておくと、話が早くなります。一つは、上の子または下の子にも吃音があるか、あったか。もう一つは、家での出方です。きょうだいで出方が違うことがあり、相談の場では目の前で症状が出ないことも多いので、どんな場面で、どんな出方をするかを書き留めて持っていくと、その場で症状が出なくても伝えられます。

「なおりますか」と尋ねられても、「男児で家族歴がある場合はなおりづらい」としか返答できない状況だと、支援者向けの資料は率直に書いています。だからこそ、支援の方針は「この吃音とうまく付き合っていく方法を一緒に考えていきましょう」に置かれています。きょうだいの一人が治り、一人が残ったとしても、残った子に道が閉ざされるわけではありません。

きょうだいの吃音で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「上の子がうつした」「下の子が生まれたせい」と、家の中の誰かを原因にする

「真似するとうつる」は学会が俗説と位置づけたもので、「下の子が生まれて愛情不足」は公的資料が過去の原因論として整理したものです。診療ガイドラインは、きょうだいが共有する家庭環境は原因ではないか、あってもごくわずかだと明記しています。犯人を探す時間は、きょうだいのどちらかを傷つけるだけで、吃音そのものは動きません。

落とし穴2 − 「兄は治ったからこの子も」「姉が続いたからこの子も」と、きょうだいの経過を見通しにする

家族に吃音のある人がいる子は続きやすい傾向がありますが、その家族が治ったか続いたかでは差が検出されていません。就学前の子を追った研究でも、家族の転帰によらず家族歴の有無が最も強い予測因子でした。きょうだいの経過は、もう一人の見通しの根拠にはなりません。

落とし穴3 − 先に分かった子の症状を基準にして、もう一人を見逃す・蚊帳の外に置く

吃音の出方は連発・伸発・難発と一つではなく、年齢でも変わります。先に分かった子と違う出方でも、吃音であることはあります。逆に、吃音のないきょうだいが家族の会話の輪から外れていないかにも目を向けてください。「順番に話す」ルールと一対一の時間は、どちらの子にも効く工夫です。

まずは家での出方を書き留めておくことから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

吃音は兄弟にうつりますか?

うつりません。学会は「吃音のある人の話し方を真似すると吃音になる(伝染する)」を俗説と位置づけ、2000年頃以降の研究で、環境よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったとしています。吃音のある親に育てられた養子で吃音の割合が高いという証拠も見つかっておらず、聞いて真似るという見方は否定される方向だとされています。

下の子が生まれてから上の子がどもり始めました。愛情不足でしょうか?

「下の子が生まれて愛情不足が原因」は、公的資料が過去の原因論として挙げているもので、双子研究では原因の約8割はその子の生まれ持った体質であることが示されているとされています。診療ガイドラインも、幼い頃の家庭環境や親と子のやりとりは吃音の発生にほとんど寄与しないと述べています。発症の多い2〜4歳と下の子が生まれる時期が重なりやすいだけで、原因ではありません。

兄弟に吃音のある人がいると、自分の子どもも吃音になりますか?

いない場合より見込みは高くなりますが、多くはなりません。吃音のある人213人の家族では、兄弟の20.3%・姉妹の8.4%に吃音がありました。裏を返せば、兄弟の約8割・姉妹の約9割には吃音がなかったということです。日本の3歳児調査でも、家族歴のある子は吃音のある見込みが3.27倍でしたが、家族歴を含めた要因で説明できたのは発症のばらつきの5.3%でした。

双子だと、両方に吃音が出ますか?

必ずではありません。総説は、一致する割合を一卵性の双子で約70%、二卵性の双子で約30%、同性のきょうだいで18%と整理しています。一卵性でも一致は完全ではなく、遺伝だけでは吃音のすべてを説明できないことが、双子研究の共通した結論です。

兄弟の一人だけ吃音が続いています。家庭で何が違ったのでしょうか?

家庭の違いではないと考えられています。総説は、回復する吃音と持続する吃音は共通の主要な遺伝子を共有し、持続する側にはさらに多くの遺伝子が少しずつ関わる成分が加わることを示唆したとしています。きょうだいが共有する家庭環境は原因ではないか、あってもごくわずかだとガイドラインは述べています。続いている子については、言語聴覚士やことばの教室に相談してください。

まとめ

  • 吃音は「うつる」ものではない。学会は伝染説を俗説と位置づけ、2000年頃以降の研究で体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったとしている。養子研究でも、聞いて真似るという見方は否定される方向。
  • 「下の子が生まれて愛情不足」は過去の原因論。双子研究では原因の約8割が生まれ持った体質で、きょうだいが共有する家庭環境は原因ではないか、あってもごくわずか。
  • 家族の中に複数いることは珍しくない。吃音のある人213人の家族では兄弟20.3%・姉妹8.4%、日本の3歳児調査では家族歴のある子の吃音のある見込みは3.27倍。ただし説明できる範囲は小さい。
  • きょうだいで一人だけ残るのも珍しくない。家族歴は続きやすさを動かすが、家族が治ったか続いたかでは差が検出されておらず、回復する吃音と持続する吃音は別の病気ではない。
  • 家庭では「順番に話す」ルールと一対一の時間を、吃音のある子にも、ないきょうだいにも。出方は連発・伸発・難発と一つではなく年齢で変わるので、二人目の吃音を見逃さないこと。相談先は小児を扱う言語聴覚士とことばの教室。

参考文献

  1. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」
  2. 発達障害ナビポータル「小児期発症流暢症(吃音)」(国立障害者リハビリテーションセンター/執筆: 九州大学病院 菊池良和)
  3. 吃音ポータルサイト「お子さんとの接し方の提案」(金沢大学・小林宏明)
  4. Büchel & Sommer (2004) What causes stuttering? PLoS Biol.
  5. Frigerio-Domingues & Drayna (2017) Genetic contributions to stuttering: the current evidence. Mol Genet Genomic Med.
  6. Neumann, Euler, Bosshardt, Cook, Sandrieser & Sommer (2017) The Pathogenesis, Assessment and Treatment of Speech Fluency Disorders. Dtsch Arztebl Int.
  7. Walsh, Christ & Weber (2021) Exploring Relationships Among Risk Factors for Persistence in Early Childhood Stuttering. J Speech Lang Hear Res.
  8. Kraft & Yairi (2012) Genetic bases of stuttering: the state of the art, 2011. Folia Phoniatr Logop.
  9. Singer, Hessling, Kelly, Singer & Jones (2020) Clinical Characteristics Associated With Stuttering Persistence: A Meta-Analysis. J Speech Lang Hear Res.
  10. Sakai, Miyamoto, Hara, Kikuchi, Kobayashi et al. (2025) Multiple-Community-Based Epidemiological Study of Stuttering among 3-Year-Old Children in Japan. Folia Phoniatr Logop.

当事者・家族の声の出典: V0035(NPO法人ハートフルコミュニケーション「子育てIdea Box」に寄せられた母の体験)/ V0089(note・弟にも吃音がある20代女性のエッセイ)/ V0067(NPO法人日本吃音協会 HAPPY FOX・吃音歴40年超の当事者の手記)/ V0214(日本吃音臨床研究会・第19回吃音親子サマーキャンプ 保護者の手記)/ V0115(同・第7回島根スタタリングフォーラム「親の話し合い」の記録。匿名の保護者の問いと進行役の応答)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-04 公開