吃音と知能は関係ある? まず結論から
先に結論を書きます。吃音は、話し言葉がなめらかに出てこない「発話の障害」であり、知能そのものの障害ではありません。世界的な総説でも、吃音は「なめらかで自発的なことばのやりとり」という人の最も基本的な能力に影響する複雑な発話の障害として位置づけられています。言いたいことや考えていることではなく、それを声に出す過程でつまずくのが吃音です。
また、吃音は知的障害(知的発達症)とも別のものです。知的障害は吃音に「併存」しうる、つまり一緒に見られることがある別の状態として挙げられていますが、吃音そのものと同じではありません。この記事では、この「別物だが併存しうる」という関係を軸に、よくある誤解と俗説を一つずつ整理していきます。
そもそも吃音とは — 「話し方」の障害
吃音(きつおん、どもり)は、音の繰り返しや引き伸ばし、ことばがつまって出せないなど、一般に「どもる」と言われる話し方の障害です。中核となる症状は次の3つで、このうち1つ以上がみられます。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「か、か、からす」
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「かーーらす」
- 難発(なんぱつ):ことばを出せずに間があいてしまう(ブロック)。例「・・・・からす」
吃音には、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりする特徴もあります。たとえば歌うときや声を合わせるとき、独り言のときは一時的になめらかに話せる人が多いことが知られています。同じことばでも場面によって出方が変わるという事実は、ことばそのものを知らないわけではないことをうかがわせます。
「吃音=頭が悪い」という誤解はなぜ生まれる?
吃音では、言いたいことは決まっているのに、その最初の音がなかなか出てこないことがあります。話し始めに間があいたり、同じ音を繰り返したりする様子が、事情を知らない人には「考えがまとまっていない」「うまく答えられない」ように映ってしまうことがあります。しかし実際には、吃音は話す中身ではなく、話し言葉がなめらかに出てくる過程でつまずく障害です。
思春期以降は、連発や伸発よりも、最初の音が出しにくい「難発」が中心になりやすいことが知られています。難発が頻回に出ると、面接や発表、電話応対など特定の場面で発話が困難になり、周囲から実際の力とは違う印象を持たれてしまうことがあります。こうした「見た目の印象」と「その人の知的な力」は別物だと理解することが、誤解を解く出発点になります。
吃音の原因に「知能」は含まれない
発達性吃音(幼児期に始まる吃音で、吃音の9割以上を占めます)の原因については、かつて「親の育て方が悪い」「愛情不足」といった説が語られた時代がありました。しかし2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究により、環境的な要因よりも、生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かっています。
ここで押さえておきたいのは、こうして挙げられている原因が「体質・脳・遺伝の相互作用」であって、そこに「知能の高い・低い」は含まれていないという点です。頭が良い・悪いといった知的能力の水準が吃音を起こすわけではありません。原因の理解の面から見ても、吃音と知能を結びつける根拠はありません。
知的障害・発達障害との違いと「併存」
吃音と混同されやすいのが、知的障害(知的発達症)や発達障害です。これらは吃音とは別の状態ですが、吃音のある人に「併存」する(一緒にみられる)ことがあります。日本吃音・流暢性障害学会は、吃音の併存症として比較的多いものに、限局性学習症/学習障害(LD)、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、知的発達症/知的能力障害(知的障害)、てんかん、構音障害などを挙げています。
大切なのは、「併存しうる」ことと「同じもの」であることはまったく違う、という点です。知的障害が併存症として挙げられているのは、裏を返せば、吃音そのものは知的障害とは別の状態だということを示しています。困りごとが重なっている場合には、吃音だけでなく併存する状態もあわせて専門機関で相談すると、支援の見取り図を描きやすくなります。吃音と発達障害の関係は奥が深いため、詳しくは別記事で扱います。
「吃音の人は優秀・天才」説は本当?
知能をめぐっては、「頭が悪い」という誤解とは逆に、「吃音のある人は言語能力が高い」「天才肌が多い」といった言説を見かけることもあります。気持ちを楽にしてくれる言葉ではありますが、扱いには注意が必要です。
本記事が参照している公的資料や国際的な総説は、吃音を発話の障害として説明し、その原因を体質・脳・遺伝の相互作用に求めています。そこに、吃音を知能の高さと結びつける根拠は示されていません。したがって当サイトでは、「吃音のある人は優秀だ」とも「頭が悪い」とも決めつけません。どちらの方向であっても、根拠のない一般化は、かえって当事者一人ひとりの実像から目を遠ざけてしまうからです。
「頭が悪いと思われるのが怖い」— 不安とのつき合い方
知能とは無関係だと分かっていても、「うまく話せないと、頭が悪いと思われるのではないか」という不安は、当事者にとって切実です。実際、吃音のある子どもや大人は、吃音のない人より社交不安症を併せもつ割合が高く、支援を求めたり自助団体に参加したりしている成人の約20%から半数近くに社交不安症の併存が報告されています。
吃音を恥ずかしいと感じ、なんとか出さないようにと力を入れてもがくと、かえって症状が悪化しやすいことも知られています。言いにくいことばを避けたり言い換えたりして吃音を隠すと、表面上は目立たなくなっても、「出ないか」を常に警戒しながら過ごすことになり、負担が積み重なりやすくなります。一人で抱え込まず、正しい情報を持つ人や専門家、同じ経験を持つ仲間とつながることが、不安とのつき合い方の土台になります。
受診科・相談先 — どこに相談すればいい?
吃音について相談したいときの主な窓口は、次のとおりです。
- 言語聴覚士(ST)のいる医療機関:話しやすくするための周囲の環境の調整や、発話への直接的な働きかけなどを、年齢や状態に合わせて相談できます。子どもの場合は、小児を扱う言語聴覚士に相談するとよいとされています。
- ことばの教室:学校・地域にある「ことばの教室」の教員も相談先です。就学前・学齢期の子どもの相談先としてよく挙げられます。
- 吃音の自助団体:当事者どうしが体験を語り合う自助団体(言友会など)に参加し、同じ経験を持つ人と出会うことが、吃音を否定的に捉えすぎないきっかけになることもあります。
制度の面では、発達性吃音は発達障害者支援法の対象に含まれており、学校や職場で発表・電話応対の配慮などを求めることができます。「何科に行けばいいか分からない」ときは、まず言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に問い合わせるのが近道です。多くの吃音は自然におさまっていきますが、心配なときは様子見だけにせず、相談してみてください。
知能をめぐって陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 話し方の印象で「知的な力」を判断してしまう
話し始めのつまずきや間は、考えていないことの表れではありません。吃音は話す中身ではなく、ことばがなめらかに出る過程の問題です。見た目の流暢さと、その人の理解力・思考力は切り離して考える必要があります。
落とし穴2 − 「優秀説」も「劣等説」も、根拠なく信じてしまう
「天才が多い」も「頭が悪い」も、参照できる資料に根拠は示されていません。どちらの一般化も避け、目の前の一人を見ることが大切です。
落とし穴3 − 不安を抱え込み、記録も相談もしないまま様子見にする
吃音は調子の良い時期と出やすい時期の「波」があり、印象だけでは経過がつかみにくいものです。日々の様子を書き留めておくと、専門家に相談するときに経過を伝えやすくなります。まずは記録から小さく始め、言語聴覚士など専門機関に相談できる場合はそちらが確実です。
毎日の発話の様子を手元で記録し、経過を「見える化」しておくと、相談の場で役立ちます。記録は治療そのものではありませんが、波のある症状を客観的に振り返り、支援を続けるための小さな助けになります。
よくある質問
吃音があると頭が悪いのですか?
いいえ。吃音は話し言葉がなめらかに出ない発話の障害で、知能そのものの障害ではありません。原因も体質・脳・遺伝にあるとされ、知能の高い・低いは原因として挙げられていません。
吃音は知的障害と同じものですか?
別のものです。知的障害(知的発達症)は吃音の併存症、つまり一緒にみられることがある別の状態として挙げられており、吃音そのものと同じではありません。困りごとが重なるときは、あわせて専門機関に相談すると整理しやすくなります。
「吃音のある人は言語能力が高い・優秀」というのは本当ですか?
そうした言説はありますが、本記事が参照した公的資料や総説には、吃音を知能の高さと結びつける根拠は示されていません。当サイトでは、優秀とも頭が悪いとも、根拠のない決めつけはしません。
吃音はどのくらいの人にみられますか?
就学前の子どものおよそ5%以上にみられ、その多くは自然におさまっていき、大人になっても続くのはおよそ1%とされています。国内でも、3歳までの発症率が約8.9%と報告されています。
「頭が悪いと思われそう」で不安なとき、どこに相談できますか?
言語聴覚士のいる医療機関や、ことばの教室に相談できます。吃音のある人は社交不安を併せもつことも報告されており、一人で抱え込まず、専門家や同じ経験を持つ仲間を頼るのがよいとされています。
まとめ
- 吃音は話し言葉がなめらかに出てこない「発話の障害」で、知能そのものの障害ではありません。
- 吃音の原因は体質・脳・遺伝の相互作用とされ、「知能の高い・低い」は原因に含まれていません。
- 知的障害や発達障害は吃音と「併存」しうる別の状態で、吃音そのものと同じものではありません。
- 「優秀」も「頭が悪い」も根拠は示されていません。決めつけず、心配なときは言語聴覚士やことばの教室に相談を。
